コンテンツへスキップ

記事: ARASマグカップに湯気立つCAFE FACON(カフェファソン)のコーヒー。岡内賢治さんが香りと味で、気分と時間を演出する。日常に溶け込んだ「心遣い」とは。【前編】

ARASマグカップに湯気立つCAFE FACON(カフェファソン)のコーヒー。岡内賢治さんが香りと味で、気分と時間を演出する。日常に溶け込んだ「心遣い」とは。【前編】

ARASマグカップに湯気立つCAFE FACON(カフェファソン)のコーヒー。岡内賢治さんが香りと味で、気分と時間を演出する。日常に溶け込んだ「心遣い」とは。【前編】

________________________________________

ARASのJournalでは、ご家庭でARASの使い方や盛り付けの幅を広げていくため、定期的に料理人さんとのコラボ対談を行っています。今回は、CAFE FACONオーナーの岡内賢治さんとARASのデザインを手掛けるsecca inc.代表の上町達也さんの対談です。新商品のARASマグカップとのコラボレーションとして、3つのシーンに合うコーヒー豆を岡内さんにオリジナルでブレンドしていただきました。



________________________________________

《CAFE FACON(カフェファソン)》
中目黒と代官山(ロースターアトリエ)にあるスペシャルティコーヒー専門店。コンセプチュアルな店づくりとオリジナルにこだわったメニュー(自家焙煎コーヒー、自家製スイーツ、サンドウィッチ)。ミシュランガイドで星を獲得している一流レストランをはじめ、国内外で活躍する有名シェフのブーランジェリーやパティスリーでオリジナルのコーヒー豆を提供。2019年10月には、インドネシアのジャカルタにプロデュース店をオープン。

《ARAS item》
「グリーングレー」「グレー色」「ピンググレー色」3色のマグカップ。
_______________________________________

お客さんの「人生の一部」となる

岡内
「FACON(ファソン)」は、フランス語で「流儀」という意味です。僕の流儀を押し付けるのではなく、「僕はこれが素敵だと思うから、一緒に楽しんでほしい」というスタンス。コーヒーも、ブラックが苦手であればミルクやお砂糖を入れてもらって構いません。深煎り豆でも「軽めがいい」という人には要望に合わせた風味をドリップで抽出して提供しますし、熱々のコーヒーが好きな人には熱々で提供します。その人が「おいしい」と思う飲み方で楽しんでもらうのが一番良い。

上町
立ち位置が素敵ですね。この場所には、岡内さんでなければ生まれない時間や体験があります。コーヒーだけでなく、この空間に触れた人がハッピーな気持ちになるきっかけが散りばめられている。お客さんにコーヒーを提供する上で、「味」以上に大事なことなのかもしれません。おこがましいですが、僕たちが価値を置いているポイントと近い感覚だと思っています。

岡内
「誰が来ても、楽しめる」というカフェが僕の理想です。子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、分け隔てなくなく来てくれて、それぞれに楽しめる空間。実際に、店に通っていたカップルが「結婚するんです」と報告に来てくれたりすることもあります。お客さんの人生の一部になる、そういう場所でありたいと思っています。



________________________________________

上町
今回、岡内さんに「一日の始まり」「仕事のおともとして」「夜のほっと一息つきたいとき」の3つのシーンに合わて、それぞれコーヒー豆をブレンドしていただきました。



岡内
コーヒー豆は、品種もたくさんあり、土壌によっても個性は異なります。焙煎は、それぞれの豆によって最良の焙煎ポイントがあり、その性格に合わせて焙煎を変えています。焙煎度合いを見極め、実際に焙煎をしながら微調整を行っています。「アフターミックス」といって、それぞれシングルで焙煎した後にブレンドしてイメージの風味へと近づけていきます。



〈一日の始まり〉
コロンビア、グァテマラ、コスタリカ

岡内
グァテマラの中煎りの豆は、良い酸味とコクと甘味があります。同比率でブレンドしたコスタリカの豆はマイルドでミルクチョコレートのような印象。冷めてくると青りんごのような爽やかな酸味が現れます。コロンビアの豆は単体では個性は薄いですが、全体の味を一つにまとめてくれる役割があります。朝は、「一日のはじまりとして気持ち良くスタートしたい」という気分で。パンと合わせた時にも邪魔せずに、美味しく飲めるブレンドです。

〈仕事のおともとして〉
エチオピア(ナチュラル)、エチオピア(ウォッシュド)、ケニア、ルワンダ

岡内
エチオピアのナチュラルの豆をベースに、エチオピアのウォッシュドの豆を組み合わせています。ナチュラルはベリー系、ウォッシュドは柑橘っぽい印象です。そこにケニアとルワンダの個性豊かな豆をブレンド。ケニアは蒲萄っぽく、ルワンダはオレンジのような風味。フルーティなテイストをまろやかに楽しんでいただこうと思い、中煎りにしています。仕事の合間は、少し気分をリフレッシュしたい。香り立つ豆で「気持ちを切り替えてがんばろう」というイメージです。

〈夜のほっと一息つきたいとき〉
ペルー、コロンビア、ケニア、エチオピア(ウォッシュド)

岡内
全て深煎りの豆です。飲むとゆっくりと身体に染みこんでいく。深煎りの豆には、食後の消化作用を助ける効果があります。寝る前であれば、ミルクと合わせてカフェオレでお召し上がりいただくとよりリラックスできます。

________________________________________

岡内賢治とCAFE FACON

「コーヒーをはじめたきっかけは?」という問いに、「何でもよかったんです」と岡内さんは答える。大学を卒業後、就職した岡内さんは人事の部署に配属された。入社希望の学生たちと日々向き合う中で、理想と現実のギャップに違和感を覚える。



岡内
僕のことばを信じて入社してくれたのですが、しばらくすると「話が違う」と言って辞めていく者を何人も見てきた。誰にとっても「新卒」は、一生に一回しかありません。とても申し訳ない気持ちになった。次第に、「自分がつくったもので、人に喜んでもらえる仕事がしたい」と思うようになっていきました。



5年続けた仕事を辞職して、コーヒーの世界へ進んだ。周りからは反対された。既に結婚していた岡内さんには家族を養っていく責任もあった。その時、奥さまが「あなたがやりたいのであれば」と背中を押してくれた。



岡内
コーヒーじゃなくてもよかったんです。きっかけはサラリーマン時代に上司に連れて行ってもらった喫茶店。そこのコーヒーがおいしかったことで惹かれましたが、それ以上に「人に喜んでもらえる仕事」がしたかった。



数々のコーヒーショップを巡る中で、ある日、衝撃的な一杯のコーヒーと出会う。苦味の中に、甘味があり、果実のような酸味を感じた。明らかに今まで飲んできたコーヒーとは違った。豆にこだわった、自家焙煎の店。岡内さんの中で、「こういう店をやりたい」という明確な想いが芽生えた。

いくつかのコーヒーショップで働いた後、岡内さんはネルドリップの名店「アンセーニュ・ダングル」へと辿り着く。



岡内
アンセーニュは、想像以上に厳しい環境でした。マスターのきめ細かで鋭い感性は、コーヒーの味だけに留まりません。最初は、指摘する部分に気付くことができないんです。例えば、マスターが店の扉に向かって「いらっしゃいませ」と言う。そこには誰の姿もないのですが、次の瞬間、お客さんが入ってくる。あらゆることがそのような調子で、マスターにだけは「見えている」んです。そのことに深く感動しました。

「僕たちには気付けないのに、どうしてこの人には気付けるのだろう?」

マスターを観察していると、だんだんわかってくるんです。影の動きや微かな物音など、気付くポイントがある。最初は全くわからないのですが、五感を研ぎ澄ませてゆくと気付けるようになってくる。コーヒーの技術はもちろんのこと、所作、立ち居振舞いも美しい。どうしてもマスターの感性に近づきたくて、日々鍛錬を重ねました。



ダングルに入店した時、岡内さんは32歳だった。はじめの2年は、自由が丘店のマスターの下で働き、3年目からは原宿店の店長を任されるようになる。



岡内
原宿店はダングルの一店舗目でした。マスターが最も思い入れのある場所です。前任の店長が抜けたタイミングでもあり、売上も芳しくなかった。だけど、なんとか存続させなければいけない。責任のある任務でした。


苦戦を強いられる日々が続いたが、原宿店に移って3年目、一気にお客さんが増えた。ダングルのマスターの美意識、コーヒーの技術と知識、岡内さんの「人を喜ばせたい」という強い想い、それぞれが調和して「店」という一つの空間を形成してゆく。口コミが新しい客を呼び、リピーターが増えてゆく。原宿店の再生を成功させた岡内さんは、40歳で独立を決意する。2008年9月、中目黒にスペシャルティコーヒー専門店『CAFE FACON』を開業。

________________________________________

【後編】へとつづく

Read more

ARASで、「持続可能なモノづくり」を実現する。石川樹脂工業とseccaが、樹脂で世界を変える

ARASで、「持続可能なモノづくり」を実現する。石川樹脂工業とseccaが、樹脂で世界を変える

ARASはブランドでありながら、新しい概念を実現したプロジェクトだ。そこにはARAS独自のサステナブルな思想がある。それは樹脂のイメージを新しく塗り替えるだけには留まらず、人々のライフスタイルや価値観にも影響を与える。思想が生活に融け込むことで、世界はより良く変化する。今回、ARASの中心人物である石川樹脂工業株式会社専務取締役の石川勤さん、secca代表の上町達也さん、seccaのデザイナー柳井友一さんの三人に話を伺った。取材 / 文 : 嶋津(ダイアログ・デザイナー)_______________________________________ 今、「サステナブル」を発信する意味 「この一年で、大きく風向きが変わった」と石川さんは答えた。時代の潮流に加え、コロナ禍の影響により、世間の価値観は急速に変化した。就職面接の現場では、学生の質問内容に明らかな変化が見られた。以前までは給与や企業形態に関する質問が一般的だったが、最近は「何のための会社なのか?」と訊かれる機会が増えたという。企業が社会の中で果たす役割に、若者が強い関心を抱いている。加えて、取引先とのコミュニケーションにおいても「石川樹脂はSDGsに対してどのように貢献しているのか?」という問い合わせが増えた。「ここで一度、メッセージを打ち出す必要がある」と石川さんは続けた。 素材としてのサステナブル 「永く使える」という考え方をベースに ARASをつくる背景の中で、彼らは「サステナブル」の考え方を再定義した。地球環境と共生し、持続可能なモノづくりとは何か。secca代表の上町さんは「価値観の伝播と視点の共有がミッションである」と話した。当初、世間では「プラスチック=すぐに捨てられるゴミ」というイメージがあり、海洋ゴミを筆頭に樹脂という素材が悪役として扱われていた。議論を重ねる中で、プラスチックにも再生可能な素材があること、焼き物よりも低温で生成できるためCO2排出量を抑えることができるなど、樹脂の素材としての魅力を知ってゆく。効果的に使用すれば、今までにない価値を届けることができる。問題の本質は、「捨てる」という行為であり、「捨てられるモノ」が生み出されること。「多くの人が抱く樹脂に対する偏見を、素材から切り離して、新しい認識に置き換えたい」と上町さんは話した。ARASでは、ガラス入りトライタン樹脂というリサイクル可能な新素材が採用された。また、「リサイクル」が手放しに推奨されている現状にも問いを立てた。つくる、消費する、再生する、あらゆる工程でそれぞれにエネルギーはかかる。それよりも、一つのモノを「永く使えること」が大切なのではないだろうか。そこで、「強く、美しい、カタチ。」というキーメッセージが生まれた。 構造としてのサステナブル 「安くて、良質」という呪い ARASにおけるサステナブルの思想は、素材面に留まらない。生産、廃棄、再利用における循環の中での構造にも現れている。日本の現場でよく目にする安くて、手間のかかった良質のモノ。たとえば、量販店では手づくりの商品が安価に販売されている。石川さんはそこに強い違和感を覚えた。石川:私は「安くて、良質」は呪いだと思っています。具体的には、「手間のかかった低価格の商品」を指します。「高級品で、良質」ならわかります。安ければ消費者は喜ぶかもしれませんが、その裏では誰か(つくり手)が泣いているわけです。最低賃金やそれ以下で労働している人がいる。それは果たして正しいモノづくりでしょうか。その状況を変えたいと思いました。単に「人件費の安い国でつくればいい」という話ではない。それは、場所を変えて別の人を買い叩いている行為であり、本質的な問題を解決していることにはならない。加えて、その国の経済が成長すれば、そのビジネスは10年、20年とは続かない。それが「持続可能である」と言えるだろうか。これらの問題を解決する一つの答えが「製造工程の自動化」だった。石川樹脂では、ロボットを導入し、人手をかけない仕組みづくりに積極的に取り組んでいる。利益を追求する手段としての大量生産ではなく、誰かが泣いている状況を回避するための自動化。そこには大きな違いがある。思想の有無だ。「安くて、良質」という呪いが、「技術と思想」によって祈りに変わる。 石川:検品や梱包に関しては、まだ人の手に頼っていますが、ゆくゆくはそれらの工程も自動化し、可能な限り無人に近い状態を目指します。「安くて、良質」でありながら、誰も買い叩かないサプライチェーンを実現する。 さらに在庫と廃棄の課題にも取り組んでいる。アパレル業界では、シーズンごとに様々なカラーやサイズの服が大量にリリースされ、売れ残ればセールに出され、それでも買い手が現れなければ最終的に廃棄されることが問題視されている。数をつくればいいというわけではない。「捨てる」という行為と、「捨てられるモノ」を失くすためには、適量の供給を実現する必要がある。石川樹脂は、自社工場ならではの強みを活かし、最小限のロット数で生産することに成功した。抱えた在庫に合わせて、品数が薄くなればその場でつくる。販売経路は、自社サイトがメインだ。今まではメーカーと消費者の間に、一次卸、二次卸、小売店が介在していた。その仕組みでは「どの商品が、いつ販売され、どれだけの在庫を抱えているか」という情報が届くのも遅い上、売れ残ればそれらの製品は廃棄されていた。石川:今までは壮大な情報とモノを無駄にしていました。今では自社サイトにおいて、お客様と直接コミュニケーションして、在庫も全て私たちが一元管理しています。受注状況もリードタイムも把握できる。もちろん小売店にも協力していただきながら進めていますが、在庫に関してはロスが生まれないよう数量を絞っています。DtoCという仕組みを、流通によるコストやデジタルマーケティングという観点ではなく、「適量をつくるための仕組み」として捉える。大量消費を促すための生産ではなく、求められた声に合わせて数量を調整してつくる。結果、「環境との共生」という価値軸で持続可能な構造を実現した。 精神としてのサステナブル デザインが引き出すマインド seccaが石川樹脂にコミットする以前はデザイナー不在で、取引先の意向に従って量産品の形状を決めていた。たとえば、ガラスをトライタンに置き換えた器などの模倣品──いわゆる〝ニセモノ〟と印象付ける本意ではない樹脂製品が求められた。「それだと、つくり手もつくっているモノに対して愛着が湧いてこないんです」と柳井さんは語る。石川樹脂の丹精込めた丁寧なモノづくりを見て、足りないのは「モノに対するアップデート」だと気付いた。柳井:レストラン向けに器をつくるのも、エンドユーザーである料理を召し上がるお客様に向けていると思いきや、そこで働いているシェフやサービスの人に向けています。「お客様に、この器で盛り付けた料理を出してみたい」とわくわくしてくれる。つくる側の人の気持ちが上がってゆく。わくわくしている人たちから出された料理からは、いろんなモノが伝わってくる。それがとても大事で、その内的な誘発剤としての役割をデザインに含ませたいと思っています。実際に、僕たちのデザインした器を、石川樹脂の設計チームの方々が「いきいきとしながらつくっている」と聞いてうれしくなりました。 消費者だけでなく、「つくる人(製造者、料理人、サービスを含めた)」のこころをわくわくさせることができれば、それを見ている人たちにも良い影響が生まれる。「デザイナーの責任は内側にある」と上町さんは話した。器の接し方一つにしても、毎日大事に扱っている親の背中を見てきた子どもと、飽きると捨てて新しいモノに買い替える家庭に育った子どもでは、器の向き合い方は違う。つまらなそうにモノを扱えば、それを見て育った人は乱雑にモノを扱うようになる。「東洋医学的な発想です」と上町さんは話す。大元を辿ってゆくと、価値を生む源泉にヒントがある。エンドユーザーだけでなく、「価値を生むためには何が必要か?」という問いを辿ると、デザイナーの役割はそこにあった。「捨てられないモノをつくるためには、デザイン性が重要だ」と柳井さんは話す。デザインが良くなければ、途中で手放したくなる。試行錯誤を続ける中で、ディティールに凝った樹脂素材の食器が少ないことに気付いた。工芸の世界では当たり前のことが、工業の世界では未開拓のままだった。柳井さんは、徹底的に細部に向き合った。素材の持つ美しさをいかにして引き出すか。それがひいては、モノの魅力につながり、愛着へとつながってゆく。柳井さんのことばを裏付けるように、ARASの製品は数えきれないほどの検証が行われている。取っ手一つを決めるにも10~20個のプロトタイプをつくる。人それぞれ手の大きさも違えば、重さの感じ方も違う。どこに基準を設定するかは、メンバー内で慎重に議論を重ねた。 柳井:「平均化で合わせたものは、誰にも合わない」ということばを、普段から言っています。まず自分たちがしっくりこないと、それを共有したところで誰の共感も得られません。「良し悪し」という感覚は、個人的な感性なので一概には言えませんが、少なくとも自分たちが本当に納得できるモノ、「良い」と胸を張って言えるモノをつくる。上町:モノをつくる過程、あるいは、モノを生み出した後の「モノが介在することでできる人との関係性がどう変わるか」が、僕たちの関心です。正直な話、マジメにつくり続けていれば、ある程度、美しいモノはつくることができます。しかし、「そのモノがどのような影響を与えるか」までを考えることができる人は限られている。僕たちはそういうデザイナーでありたいし、そういう人が増えていく世の中にしてゆきたい。器が触媒となり、マインド(精神)の部分でサステナブルになる。表面的に「持続可能か、不可能か」を議論してもあまり意味はない。デザインの力と、仕組みの力で、本質的な課題を解決する。上町さんの言った「価値観の伝播と視点の共有」は、言い換えれば「文化をつくること」だ。彼らは、樹脂によって人々のライフスタイルや価値観に大きな影響を与えている。 これからの展望 サステナブルの観点から、粘り強く問いを立て続け、一つひとつ解決してゆく。そこには常にチャレンジ精神がある。「意思決定の多さと失敗の多さでは大企業に負けない」と石川さんは語る。それは、アクティブに挑戦し続ける姿勢を意味する。2021年冬には、石川樹脂は新たなプロジェクトを立ち上げる予定だ。モノを永く使うことは正義だが、それは急速にモノを消費するビジネスモデルが通用しないことを意味する。お客様にモノを売っているようで、コトを共有してゆくことが仕事になるかもしれない。そう上町さんは話した。レストランにおいて、今まで陶磁器の食器、貴金属カトラリーが当たり前だった中で、新しい選択肢としてARASが採用されるようになった。選択肢の一つとなり、他の素材とも共存できている。今後はさらに、樹脂でなければ表現できない新しいポテンシャルを引き出し、樹脂の工芸的な表情を模索してゆく。柳井さんはそう語った。 石川さんは仕組みの面で随時改良をしていく意向を見せた。製品の回収の仕組みを整えること。宅配便に頼ると、トラックによるCO2排出によって無駄なエネルギーがかかる。そのため各地に回収スポット(サステナブルBOX)を設ける計画を立てている。国内に小売店が200~500ヵ所あれば、理想的なサイクルが実現できる。「まだまだ改善の余地はたくさんあります。それを一つ一つARASが大きくなるにつれて丁寧に解決していきたいと思います」と、石川さんはこの鼎談を締めた。_______________________________________素材、構造、精神、あらゆる軸で価値観のアップデートを起こす。ARASの「持続可能なモノづくり」は、樹脂を通して文化をつくり、世界を変える。この多層的なサステナブルが、美しい未来を実現する。  

もっと見る
ARASマグカップに湯気立つCAFE FACONのコーヒー。岡内賢治さんが香りと味で、気分と時間を演出する。日常に溶け込んだ「心遣い」とは。【後編】

ARASマグカップに湯気立つCAFE FACONのコーヒー。岡内賢治さんが香りと味で、気分と時間を演出する。日常に溶け込んだ「心遣い」とは。【後編】

 ARASのJournalでは、ご家庭でARASの使い方や盛り付けの幅を広げていくため、定期的に料理人さんとのコラボ対談を行っています。前回に引き続き、CAFE FACONオーナーの岡内賢治さんとARASのデザインを手掛けるsecca inc.代表の上町達也さんの対談です。コーヒーの風味、器との関係性、そして、それらの背景にある「心地良さ」について。 《CAFE FACON》中目黒と代官山(ロースターアトリエ)にあるスペシャルティコーヒー専門店。コンセプチュアルな店づくりとオリジナルにこだわったメニュー(自家焙煎コーヒー、自家製スイーツ、サンドウィッチ)。ミシュランガイドで星を獲得している一流レストランをはじめ、国内外で活躍する有名シェフのブーランジェリーやパティスリーでオリジナルのコーヒー豆を提供。2019年10月には、インドネシアのジャカルタにプロデュース店をオープン。   「心地良さ」をデザインする 「おいしい」は、コーヒーを飲む前からはじまっている。主張するモノだけでなく、溶け込んでいる要素の中に、「心地良さ」は隠れているのかもしれません。コーヒーとデザインの共通点。  ──コーヒーを楽しむ時間、器のある生活など、お二人とも「モノが人へ届いたその先にある感情や景色」まで含めて大切にされているように感じます。どのような点を心がけていらっしゃいますか?  岡内「喜んでもらいたい」という想いしかありません。そのために何ができるか。お客さん全員を「自分の家に来てくれたゲスト」だと思うと、やっぱり楽しんでもらいたいんですね。デート、打ち合わせ、一人の時間を過ごすため、会話を楽しむため……カフェには、様々な用途でお客さんが来店します。その時のお客さんを見て、その状況をいかに満足してもらえるか。  「今日ちょっと元気ないな」と感じれば、「どうすれば元気になってもらえるだろうか」と考える。それが「味」として伝えることができるのか、「コミュニケーション」で実現できるのか。常に、その時にいるお客さんを見ながらリラックスして楽しんでもらえる状況つくるように心がけています。 上町テクニック以前の要素が大事なのだと思います。数値化できない部分ですよね。そもそも店への愛やコーヒーへの愛など、そういうレイヤーのこと全てが含まれます。例えば、店内に絵を飾るにしても、そこに愛がなければ、額装が歪んでいても見えません。違和感に気付くことができないんです。でも、「お客さんに心地良く過ごしてほしい」「絵を描いた作家さんが最も良いと思える状態で飾る」ということに意識を向ければ、1mmのズレにも気付くことができるはずで。大事にしている想いがあるかどうかが大切な気がします。 岡内「こういうことをすれば喜んでもらえるんじゃないか」と自分なりに考える。まさに想いの部分ですよね。プロフェッショナルとしての技術や所作を洗練させることが前提ですが、リラックスしてもらえる空間づくりが先にあります。  例えば、オーダーを取りに行くこと一つにしても、せっかちなお客さんには早くお伺いに行った方がいい。のんびりしたお客さんにはあまり早くテーブルへ行くと急かされている気持ちになってします。人それぞれのペースがあり、それを崩されるとストレスになり、後の味わい方が変わります。同じコーヒーでも、イライラしているとおいいしいと感じない。つまり、一人ひとりのペースと調和することが大事なんです。ベストな状態でコーヒーを味わっていただくためには、環境づくりからはじまっています。 上町「デザイン」というのは横文字で、ファッショナブルな印象があります。「かっこいいね」と言われるものをつくった方が、評価されているように感じます。ただ、生活に溶け込んでいるところにもデザイナーは存在しています。ロースターのパネルやドアハンドル、公共設備における目の見えない人に向けた点字や足場などのインフラもそうですよね。要は、一見地味だけど、誰かの人生を少しでも良い方向へ導くことに繋がっているもの。そのような価値を生んでいる部分が大事だし、僕自身関わっていたい。  かっこいいものを作ることはある意味簡単です。自己満足に近い部分があるので。表面的な自分の承認欲求を満たすようなことで、大事なものを見失わないようにしたいと思っています。「人の為」ということが最も心地良いはずなんです。だから、岡内さんのお話には強く共鳴します。自分の「我」のようなものを抑えることで、見える景色があるのかもしれないということが最近の発見です。 岡内今回、ARASマグカップを見せていただいて、器へのこだわりが僕としてもすごくうれしくて。なかなかここまで想いを込めて作られたカップってないですよね。「デザインはいいけれど、使いづらい」という器は世の中にたくさんあります。この器は、手に持った時に「すごい」しかなかった。「使う人」のことを徹底的に考えている。  まず、取っ手のカタチ。大きさがしっくりくる。中指が取っ手に引っかかって、これがあるのとないのでは指への負担が全く違う。   上町「てこの原理」によって、握らなくても持てるように設計しています。指でホールドする必要がありません。それゆえ、手への意識が軽減され、自然と味に集中できます。 岡内意識せずにすっと持てる。ストレスがないんです。器の縁も薄く、口当たりへの心遣いも感じる。外側と内側の曲線部分にもこだわりが見えます。実用性を考えて、スタッキング(積み重ねる)できることもうれしいですよね。「どれだけ考えてこれを作ったのだろう」と。すごい発見というか、可能性というか……出会えてよかった。 上町僕たちの想いを汲み取ってくださり、ありがとうございます。 色が与える「気分」というおいしさ 岡内どういう味をつくりたいかは、色で喩えます。風味や香りでそれぞれ色があり、それをパレットで混ぜるようにして独自の色をつくっていく。 上町風味の可視化ですね。デザイナーの僕にはとてもわかりやすいです。「赤と緑は喧嘩するよ」みたいなイメージですよね。 岡内柑橘系の味と色で喩えると、黄色や薄い緑になる。ベリー系だと赤やピンク。味の傾向と色が同じなんです。色を重ねることで、どういう風味になっていくのかが見えてくる。 上町色と風味の関係性はおもしろいですね。人は、色を認識した時に何かしら印象を受けます。先ほど岡内さんの話していた、オーダー時のペースを調和させるか、乱すかで味が変わるという話と近い部分がありますよね。例えば、カップの色の情報によっても味に影響を与える。 岡内色で、その時の味は変わりますよね。中目黒の店では、様々な柄の器を使っています。毎回、その時のお客さんの雰囲気を見て、選ぶようにしています。いろんな器を楽しんでいただきたいので、基本的には前回来店した時とは違う器をチョイスする。少し元気がなさそうであれば明るめの器を選んだり、仕事でシャキッとしているイメージであればシャープな器を選んでみたり。「観察して選ぶ」ということが僕たちとしても楽しい。 上町飲む人の雰囲気や気分によって、そのようなアプローチができれば有意義ですよね。これからの仕事における「働く意義」のヒントが詰まっている気がします。マニュアルではなく、働いている人の個性や感じ方によっても、選ぶ器は異なってくる。その属人的な心遣いにこそ、僕は未来の可能性を感じてしまいます。 Restaurant L’aubeさんとのお付き合い 上町Restaurant L’aubeさんとは十年前からのお付き合いということを聞きました。レストランでも岡内さんのオリジナルブレンドのコーヒーが飲める。日頃、どのような会話をしながら豆を選定されているのでしょうか?  岡内パティシエの平瀬さんがデザートを切り替えるタイミングで声をかけていただきます。「次のデザートはこのようなイメージです」と、それを受けてブレンドする。僕は今橋さんと平瀬さん、二人の作る料理とデザートが大好きなので、傾向はなんとなくわかります。メインの料理を聞けば、それに合うコーヒーも決まってきます。ただ、レストランにおいて、コーヒーはメインではありません。デザートに合わせる時は、あくまで主役はデザート。主張が強過ぎてはいけない。料理やデザートに寄り添う味を一番に考えています。二人も僕のコーヒーを信じていただいているのでやりやすいですね。  次号のJournalはRestaurant L’aubeの平瀬祥子さんと上町さんとのコラボ対談です。お楽しみに。  

もっと見る