私たちについて
ARASは、石川樹脂工業の新しい挑戦からはじまったプロジェクトです。
わたしたちの工場は、石川県加賀市の自然豊かな山麓にあります。周辺には花山法皇の宝物伝説が残る法皇山横穴古墳があり、工場の裏側には樹齢2300年と言い伝えられている栢野(の)大杉がご神木として深く根を張っています。そのため地盤が安定していて、自然に守られた地域となっています。わたしたちは、この場所で働いています。
冬は、一面の雪景色。そこに住む人々は農作業から離れ、木を挽いたり、塗り物をしたりして内職に精を出しました。豪雪地帯ですので、どの民家にも雪かきの習慣があります。粘り強く一つのことに手と心を込めること。あきらめずに、地道に継続すること。この風土が、職人の精神を養ってくれたように思います。
また、加賀は日本有数の温泉郷でもあり、江戸時代には北前船*の船員たちが身体を休める地域でもありました。必然的に、北陸の外から人と文化が流れてくる場所として栄えた背景があります。新しいものに関心を抱き、それをおもしろがって受け入れる。この土地の気風は、そこにルーツがあるのかもしれません。
同時に、金沢の文化からも多大な影響を受けています。金沢では街の至るところに文化的な声が息づいています。料理人たちは誰もが文化への造詣が深く、食を通して客人をもてなす哲学を持っています。それは遡ること江戸時代、前田家三代目利家の頃に行われた革新的な文化施策によって「食」と「ものづくり」の文化が醸成されたところにルーツがあります。工芸品のみならず、時の有力者を招く際には「お茶事を催し、心を込めておもてなしする」といった独自の空間づくりにまで発展しました。
わたしたちがモノとしての器だけではなく、“食体験”を提供する考えに至ったことは、これらの風土に由来した自然の流れかもしれません。
ブランドとしての「ARAS」をお伝えするためには、そのベースとなる石川樹脂工業から説明した方が良いかもしれません。
石川樹脂工業は、1947年に創業しました。石川県加賀市山中温泉地域で生産されていた漆器の基となる木地を挽き、それらを販売するところからはじまります。同じ地域内だけで販売していると安く買い叩かれてしまうので、それを漆器で有名な輪島へと売りに行きました。目の肥えた輪島のお客さんにも受け入れられ、木地屋として地盤を固めていきます。
一方で、木地を広めることに難しさを感じていました。木地づくりは、水分を含んだ状態の木材だと歪んでしまうため長時間乾燥させる必要があり、手間と工数がかかります。さらには、寸法精度や量産製造の課題もあり、上質な木地を多くの人に届けることには限界があります。そこで、「樹脂」という素材に目を向けました。
「これを使えば、量産が可能になり、より多くの人が使用できる漆器をつくることができる」
当時、その決断は業界に大きなイノベーションを起こしました。高度経済成長期のことです。そこで培った成形の技術力を生かしてインフラ向けの工業部品など、幅広い製品を手掛けてきました。ARASには、石川樹脂工業の礎となった「誰もやらなかったことをやる」という精神が受け継がれています。
量産の仕組みを活用しながらも、あくまでも品質にこだわったものづくりに励んできました。しかしながら、時代の流れの中で樹脂に対する「安価で、個性がない」という印象が次第に大きくなってきました。便利な技術があっても、ものをつくるのは人です。実際に、品質が良くないものを流通させるメーカーもあり、さらには環境面からも問題視されるようになりました。
樹脂を扱うプロとして、これほどすばらしい素材はないと思っています。問題は樹脂ではなく、素材の使われ方やイメージの方にあります。サスティナブルの観点からも、魅力的な素材であることはあまり知られていません。
「樹脂という素材で、器を通して食体験を豊かにすることができれば、世の中も素材への価値観もより良くなるのではないか」
その考え方に共感したメンバーが集まり、2020年の春にARASは生まれました。
ものづくりにおける商品には、大きく分けて「悩みの解決」と「気持ちを高める」の2タイプがあります。便利さや機能性で使い手の悩みを軽減したりタイプと、それを使うことで気分がわくわくしたり自信が持てたりするタイプ。
ARASはその両方でありたい。
この器を使っていると、気分が明るくなる。その時々を楽しんだり、わくわくしたり、自信が持てたり。使っているだけで、生活が一段心地良くなる。わたしたちは、そんな器づくりを目指しています。
良き器をつくることは、良きつくり手を育てること。
わたしたちは、人間の可能性を信じています。人の持つ可能性や魅力を信じ、時にそれらを引き出しながら、力を合わせてつくること。そして、つくり手の想いは、使い手の想いへと繋がるはずだと信じています。そのためには、つくり手が本気で「いい」と思ったモノをつくることが大事です。働く人が気持ちよくつくった商品だからこそ、はじめてお客さんにも気持ちよく使っていただける。
そのためにも、日々「これでいいのか」と問い続けています。あきらめず、コツコツと、地道に工夫と改善を積み上げる。特別なことをやっている感覚ではなく、呼吸するような感覚で。これがわたしたちARASのものづくりです。