Journal

温められる美しい器『ヒートコレクション』~新しい「色と素材」が切り拓いた、新しい「食卓の表情」~《後編》
前編では、新しいヒートコレクション誕生の開発エピソードをお届けしました。後編では、その過酷な挑戦を支え続けてきたARASの原点「工芸的プラスチック」のルーツと、これから描く未来の食卓の風景へと迫ります。 上町 達也 / プロダクトデザイナー(secca) 嶋津 亮太 / インタビュアー(ダイアログ・デザイナー) “自然の表情”を再現する 人間が直感的に心地良いと感じる“自然のカタチ”。それは、インダストリアル(工業)の代名詞とも言えるプラスチックの器の中に、大自然の揺らぎを内包させる試みでもありました。“自然の表情”を再現する。ARASが挑戦し続けてきたこの物語のルーツは、一体どこにあるのでしょう。 上町: たとえば、海を眺めたとき──寄せては返す波や、波打ち際でゆらゆらと揺れている水面を見て、「汚い」とか「不自然だ」とは思いません。でも、もし人間が作為的にバシャバシャと水を流して作った波のカタチだったとしたら、どこかに違和感を覚えるはずです。人間には、それが作為的であるのか、無作為(自然にできたもの)であるのか、必ず見分けられると思っています。 ARASが探求し続けてきた「捨てられない」「大切にしたい」と使い手が想う美しさ。その挑戦の起源を探っていくと、ARASというブランドが産声を上げるさらに前、前身である「Plakira(プラキラ)」の時代にまで遡ることがわかりました。 上町: 石川樹脂工業さんとの具体的なお付き合いが始まったのは、2016年の7月のことでした。その一発目のプロジェクトとして産声を上げたのが、ARASの原点でもある「ゆらぎタンブラー」です。その前後にも、他社さんのアイテムの製品開発や金型設計など、様々なモノづくりをお手伝いさせていただきました。 ただ、当時から彼らと一緒にプロダクトを発展させていく中で、僕の頭の中にはずっとひとつの大きな問いがありました。それは、世の中で大きく騒がれ始めていた、環境問題としての「プラスチックごみ問題」や、マイクロプラスチックの問題です。 「世間のプラスチックという素材に対する偏見を取り除き、同時に同素材起因の問題を解決しながら、この素材の魅力や価値を伝えていきたい」。上町さんにとって、ARASというブランドを立ち上げ、モノづくりを続けていく中での原動力は、その強い想いにありました。まだ世の中に広く伝わっていない“樹脂”という素材が持つ真の価値と可能性。それを、“食器”というプロダクトを通じて、日々の食体験の中で使い手と共有していくこと。 誰もが疑わない「プラスチックとは、安価で均質な素材だ」という大前提。それをまず、根本から疑うことから始めなければならない。本当に、これしかできないのだろうか。樹脂だからこそ到達できる表現が、まだどこかにあるのではないか。上町さんは問い続けました。 上町: 僕が一番のヒントにしたのが、古来日本が培ってきた「工芸」の世界でした。工芸の世界では、素材の100%を人間の力でコントロールしようとするのではなく、素材の持つ性質や「自然の現象」に対して、あえて2割ほどの余白を残し、こちらが身を委ねる感覚があります。人間の作為と、自然の無作為の境界線をうまく調和させて、一点ものの揺らぎを楽しむ。特に焼き物の、陶磁器における釉薬の美しさなどはその最たるものです。 一方で、プラスチックという素材は、これまでの工業の歴史において「100%完璧に制御すること」だけが正義とされてきた素材です。「工芸と同様に、プラスチックという素材が自然と生み出す美しさと真正面から向き合ってみたら、どうなるだろう?」。それが、すべての始まりでした。 実験を重ねる中で、上町さんの中にひとつの確かな手応えが育まれていきます。そして、2017年、具体的な提案書を作成しました。そこには既に、通常の成形技術では「不良」として弾かれるはずの「ウェルドライン(樹脂が合流する際にできる筋)」を意図的に発生させる表現や、あえて成形条件を崩すことで生まれる“無作為の表情”のアイデアが書き込まれていました。常識を覆すその提案の中に掲げられていたキーワードこそが、「工芸的プラスチック」でした。 この前例のない提案に対し、石川樹脂工業の石川勤専務は「それは面白いね、やろう」と即座に賛同します。この瞬間から、「工芸的プラスチック」という概念は、彼らが目指すべき大きな目標の一つとして、鼓動しはじめたのです。 * 「工芸的プラスチック」が生まれた日 そこから実験を繰り返し、長い手探りの状態を経て、「これはいける」と最初に確信を得たのがARASのプロダクトであるカトラリーの柄の部分でした。工業的なプラスチックでありながら、素材自体が自らの風合いを静かに主張するような、全く新しい「素材の表情」が誕生した瞬間です。 上町: あのカトラリーの表情を見た瞬間に、僕がずっと言葉で掲げてきた理想が、こうやって本物の形になっていくんだという、震えるような発見があったことを今でも鮮烈に覚えています。 自然な表情はセレンディピティから 上町: あれは、僕たちが狙って完璧にコントロールして出した模様ではないんです。工場の現場で、「上町さん、ちょっと条件を変えたら、失敗してこんな変な模様が出ちゃいました」と見せてくれた試作がありました。それを見た瞬間、僕は「え、これ、めちゃくちゃカッコイイじゃないですか!」と叫んでいました。 現場の職人からすれば “失敗作の不良品” ですが、クリエイターの目で見れば、それは既に上町さんが思い描いていた“美しい工芸の佇まい”でした。 「これ、製品としての物性や強度の面では問題ないんですか?」 思いがけず現れたその無作為の模様に対し、上町さんが尋ねると、現場からは「性能的には何の問題もない。ただ模様が出ているだけだ」という答えが返ってきました。ならば、この模様を狙ってわざと出し続けることはできないか。そこから“自然な表情”を再現する果てしない旅ははじまりました。 通常の工業製品の生産ラインであれば、一品ずつ表情の違うものが混ざっていれば、真っ先に「不良品」として弾かれてしまいます。しかし彼らは「それこそが素材の持つ唯一無二の個性であり風合いなのだ」と、常識の定義を颯爽とひっくり返していきます。 だからARASは進化する 上町: どちらかと言えば、僕の中では「樹脂の器で質の高い食体験を提案する」というブランドがこれまで世の中に存在しなかった、という強い起点があるんです。もちろん、いろいろな分野ですばらしいモノづくりをされているメーカーさんはたくさんあります。ただ、それらは基本的に、陶磁器のリプレイスメント(代替品)として作られています。表情も陶磁器を模したレプリカのようなものがほとんどでした。その中で「樹脂そのものが持つ良さを引き出して表現する」という軸は、僕の中では他にはなかったように思います。 この新しい挑戦は、デザインチームにとっても製造現場の開発チームにとっても、すべてが手探りの「初体験」でした。前例のない器を形にすること。その価値を自分たちの言葉で使い手へ伝えること。そして、実際の食卓で使われた感想を受け取ること。あらゆるプロセスが“初めて”の連続です。 さらに、プロダクトを世に送り出す上で欠かせないのが「経年」という視点です。手にした瞬間の第一印象が重要であることは言うまでもありません。しかし、1ヶ月後、あるいは1年後、器は暮らしの中でどのような表情の変化を見せるのか。素材に対する使い手の慣れや生活習慣の変化を含め、長い時間をかけた定点観測を経なければ、決して見えてこない領域が存在します。5年経ったときに愛着を持てない姿に変わってしまうのか。あるいは10年、100年と愛され続けることができるのか。世界中の誰も、樹脂の器が辿るその長い時間軸をまだ目撃したことがありません。 上町: ブランドが立ち上がってから約6年半。それは、使い手の日常に寄り添う中で、作り手たちが予期していなかった様々な発見が、良い面も悪い面も含めて、確かなデータとしてようやく集積し始めたタイミングでもありました。 ユーザーのみなさまからの声に耳を傾け、改善に改善を重ねる。一度、うまくいったことでも、何度も疑い直す。一度、プロダクトを世に出したからといって、決してそこで完成ではありません。確かに、リリースした時点では間違いなくそのときのベストを尽くした完成形ではありました。しかし、使い手のリアルな声と向き合うことで、その先にはより良いモノが存在することに気づかされるのです。 既存の素材という大前提から一歩踏み出し、もう一度ゼロからあらゆる素材を見つめ直す。そうした途方もないプロセスの末に辿り着いたのが、今回のヒートコレクションにおける選択肢でした。しかし彼らは、それすらも決して永遠の正解だとは捉えていません。3年後、5年後には、きっとまた新たな“より良いモノ”へと進化を遂げていくはずです。ARASチームの眼差しは、常にその終わりのないモノづくりの先を見据えています。 上町: 近い将来、大きなブランドの課題になるのではないかと感じていることがあります。それは、初期からのファンの方々、ブランドを信じて長く使ってくださっているみなさまへの向き合い方です。「“永く使える”と聞いたはずなのに、もっといい進化版が出ている」となると、初期に応援してくれた方ほど、少し残念な気持ちになるかもしれません。そういう繊細な部分に、どのように想いを込めて、丁寧にケアできるか。初期からのファンのみなさまにもARASをずっと大好きでいてもらい続けるために、僕たちは何をすればいいのか。想いや期待を裏切ることなく、一緒にそのブランドの成長を喜べる関係性とは何だろう。そこに、これからのARASというブランドの在り方が求められると思っています。 これからARASが見据えるのは、「メーカーとユーザー」や「売り手と買い手」といった旧来の二項対立ではありません。ARASというひとつの世界観を共に育み、広めていく仲間としてのコミュニティ。作り手と使い手という役割の境界線を少しずつ溶かしながら、一緒に食卓の風景を育てていく。その関係性をどのようにデザインしていくか。それこそが、ARASというブランドが次に向き合うべき、新たな課題なのです。 食卓から暮らしへ——「0.5手目」のコラボレーションが紡ぐ風景 ARASのルーツを辿り、「工芸的プラスチック」をカタチにし続けてきた軌跡を話し終えた後、上町さんはユーザーのみなさまへ向けたメッセージでインタビューを締めました。 上町: 僕たちがプロダクトを通して届けたいのは、最終的には「おいしい」という幸福な記憶です。ですが、その「おいしい」という体験を作るのは、僕たち作り手の力だけでは絶対に不可能です。 毎日過ごすダイニングで、誰かのために料理を作ってくれる人がいて、それを食べる人がいる。一人だろうが、大切な家族であろうが、そこに食卓があるということは、そこには食に関わる“温度”が間違いなく流れています。 僕たち作り手ができることは、その温かな時間を器として支える、せいぜい「0.5手目」の役割でしかありません。だからこそ、ARASのプロダクトを使うということは、使い手のみなさまが僕たちのモノづくりと “コラボレーション” して、一緒にその瞬間の豊かな食体験を作り上げているということなのだと思います。 自分で言うのは少し気恥ずかしいですけれど、「みなさまと一緒に、最高の食卓の景色を作っていきたい」というのが、僕の一番の想いです。世界中の家庭やレストランの食卓で、今この瞬間も、僕たちの器を通して新しいコラボレーションが生まれているのだとしたら、これほど幸せなことはありません。 文・編集/嶋津亮太(ダイアログ・デザイナー)
閱讀更多
温められる美しい器『ヒートコレクション』~新しい「色と素材」が切り拓いた、新しい「食卓の表情」~《前編》
\食卓に、温めるという選択肢を/ ARASのベーシックコレクションの一部アイテムが、電子レンジでそのまま使えるヒートコレクションとして新たに展開されます。 「器に盛った料理をそのまま温めたい」 「忙しい生活の中でも、できるだけ美しい器で食事を楽しみたい」 「この器、レンジ対応になりませんか?」 店頭で交わされるユーザーのみなさまのリアルな声は、想像以上に切実であり、そのまっすぐな想いがARASチームの心に響きました。 電子レンジでそのまま使える器は、現代の食卓において、暮らしを支える小さな安心でもあります。そして、今回ARASが新たにお届けするヒートコレクションは、単に利便性を追加しただけの器ではありません。その“表情”にご注目ください。 今回のジャーナルでは、ヒートコレクションの開発物語とARASチームの挑戦に迫ります。 上町 達也 / プロダクトデザイナー(secca) 田上 隆嗣氏 / 製造部・射出成形/ロボット教示(石川樹脂工業) 𠮷野 正史 / 製造部・調色(石川樹脂工業) 嶋津 亮太 / インタビュアー(ダイアログ・デザイナー) 釉薬をオマージュした“グレイズカラー” その深い色彩。光を受けると、ただの一色ではなく、その奥に複雑な表情が潜んでいるのがわかります。こよなく静かで、重厚なその色味は、食卓に並べるだけでその場の空気を心地よく引き締めてくれるような、独特の存在感があります。 この濃彩だからこそ表現できる季節感があり、日本の食卓が古来から大切にしてきた美意識に添えるものがある。「何度も限界に挑みながら、器の“表情づくり”に情熱を注ぎました」とプロダクトデザイナーの上町さんは語ります。 上町:これらのカラーを「グレイズカラー(釉薬色)」と呼んでいます。陶磁器は、天然の粘土の上に、ガラス成分や金属成分を含んだ釉薬をまとわせ、高温の火にかけます。そこで起こるのは、花火の現象と同じ炎色反応であり、化学結合による偶然の美しさです。 よく観察してみれば、何色もの複雑な粒子が混ざり合って、奥行きのある一色を形作っているのがわかります。その吸い込まれるような複雑さこそが、人が美しいと感じる普遍的な魅力だと思っています。それは“火”という自然の揺らぎから生まれるから。 ARASがずっと掲げているのは、焼き物の真似事をするのではなく、焼き物でも到達できない樹脂ならではの表現を目指すこと。そのためには、いかにして「樹脂そのものに、自然な現象として暴れてもらうか」が最大のチャレンジでした。 素材の新しさ、ガラス含有量40% ARASの定番であるベーシックコレクションと、今回の新シリーズの違いは素材にあります。ベースとなる樹脂の種類を変えたことに加えて、ガラスの含有量を40%まで高めたことで、強度だけでなく、手に持ったときの重厚感も生まれました。さらには、表面の表情の揺らぎが劇的に変化し、樹脂の常識を覆す変化がもたらされたのです。 田上:最大の特徴は、電子レンジでの加熱に対応できる極めて高い耐熱性です。そのベースとなる高耐熱樹脂に、ガラスを40%配合したことによって独特の表情が生まれました。実は、これほど大量にガラスが含有された樹脂食器は、一般の市場にはほとんど出回っていません。 上町:手にした時のこの感覚、初見で「これが何の素材か」を一発で当てられる人はいないと思います。器をお見せするたびに「この器、一体何でできているんですか?」と驚かれます。 世の中的には「プラスチック=安価でチープなもの」という偏見が、どうしても根強くありますよね。*実は、樹脂という素材は、一般的に認知されているものだけでも1万種類以上存在するんです。非常に奥深い世界なのに、そのイメージだけが先行してしまう。 この器は、美しさと重量感によって五感からその偏見を心地よく裏切っていく。驚きの後で「使用されている素材は、樹脂であり、将来的にはリサイクルを想定して作られています」と説明すると、納得度の高いストーリーとして受け取ってもらえるのではないかと思っています。 *一般に「プラスチック」と呼ばれる素材も、広い意味では樹脂の一種です。ARASが扱っているのは、その中でも高い機能性を持つ樹脂にガラスを配合した独自の新素材です。 * 原料メーカーの「無理です」からはじまったブレイクスルー グレイズカラーの美しい色味と一期一会の揺らぎある表情。これが生まれるまでには、数々の困難とチームプレイがありました。 上町:「陶磁器のような、一色の中に複雑な色彩が溶け込んでいる表情を作りたい」という僕の構想が起点としてありました。そこで、着色剤の専門メーカーへ直接足を運び、意図を説明すると、一言「無理です」と断言されてしまったんです。 今回、採用された「SPS」という特殊な樹脂は、電子レンジへの対応を実現する一方で、成形時の温度が極めて高くなるという大きなハードルを抱えていました。メーカーからは、「ここまで温度が高くなると、複数の色を入れても成形機の中で完全に均質に混ざり合って一色になってしまう。狙ったように色をランダムに散らせるような表現は、樹脂の特性上無理だ」と。 メーカーから突きつけられた「不可能」という言葉。プロジェクトは八方塞がりの状態に陥ってしまったかのように見えました。「白紙に戻そうか」と誰もがあきらめかけていた只中で、誰にも告げることなく無謀とも思える実験を進めていた人物がいました。 ある日、上町さんが工場へ行くとふいに声を掛けられます。 「上町さん、できないって言ってたあれ、できてますやん」 そこには、試作サンプルを手にした吉野さんの姿がありました。 上町:吉野さんが持っていた器は、紛れもなくイメージしていた釉薬のような複雑で魅力的な表情なんです。吉野さんは誰にも言わず、先回りして実験を繰り返していたんです。吉野さんのそのアクションがなければ、僕は「メーカーが無理だと言うなら仕方ない」と釉薬のような表情を作ること自体を完全にあきらめていたと思います。ここが、チームとしての大きな転換点です。 メーカーが不可能だと断言したことを、吉野さんは経験と実験によって覆しました。それが突破口となり、そこから一気に開発は速度を上げていきました。中途半端な妥協で終わらせることなく、限界までやり尽くす。それこそが、石川樹脂工業に根付く「とにかくやってみよう」の精神です。そして、今日まで続けてきたARASのモノづくりにおいて何よりも重要な姿勢なのです。 開発は、RPG(ロールプレイングゲーム)のように 開発プロセスを辿ると、映画を観ているかのようなドラマ性があります。興味深い点は、いかなる逆境においてもARASチームのみなさんからは“悲壮感”が漂わないこと。たとえ絶望的な局面であったとしても、彼らの言葉にはどこか希望の響きがあり、モノづくりを純粋に楽しんでいる爽やかな空気が漂っています。その理由を深掘りしました。 ──みなさんは前例のないモノをおつくりになっているわけですが、言い換えれば「正解の分からないモノを作り続ける」とも表現できます。そこにはどのような苦労がありましたか? 田上:この独特なグラデーションや、1点ずつ異なる揺らぎのある表情は、射出成形(樹脂の型流し)の技術としても、非常に高いハードルがありました。上町さんが求める理想の模様に近づけるために、射出スピードや温度といった成形条件を、コンマ数秒、数度単位で微調整し続けます。当然、まだ世の中にないモノなので、参考となる商品はありません。手がかりは、上町さんの言葉だけ。 「なんとなく言っていることは分かる、でも、100%は分からない」と、常に50%くらいの不確実な感覚の中で探ることになります。そして、僕たちが操作できるのは、機械の射出スピードや温度といった“数字”だけなんです。上町さんが求める理想のイメージと、僕たちが動かす数字を、どうやってイコールとして結びつけていくか。そこが一番苦労したポイントであり、同時に面白さを感じる瞬間でもありました。 吉野:いつも上町さんは、明確なゴールを見据えています。そこに向かうためにどのルートを辿るか。僕はその意図を読み込んで、調色を繰り返すだけです。原料の特性上、できる範囲は限られています。「ここまではできるが、これ以上は無理」と現場の限界に対して、上町さんは「だったら、このルートに変えよう」と別の道を提案してくれる。それに対して僕も、素直に乗っかることができたり、僕なりの提案をしたりもできる。お互いに“作り手”としてリスペクトし合いながら、同じゴールに向かって一緒に道を歩んでいる感覚がすごく楽しいんですよね。 上町:見えないゴールに対して、辿り着くためのルートはいくつもあります。その迷路のようなプロセスの途中で、チーム全員で共感しながら一歩ずつクリアできている実感が、今回の開発では背中を押してくれました。 「目的地に辿り着くには……あれ? 今の俺たちの装備が足りない」とか「この扉を開くにはどうすればいいんだ」など考えては、必要な情報を仕入れたり、道具を探し回ったり……本当にRPGの冒険のような感覚です。 吉野:だからこそ僕は、上町さんが工場へ来る前に、先に調色サンプルを作って用意しておくようにしていました。「これまでの流れから、おそらく次はこちらの方向に振ってほしいって言いそうだな」と、あらかじめ選択肢をいくつか先回りして用意しておくんです。お互いに割ける時間は限られていますから、いかにその検証時間を短縮して濃密にするか。そのやりとりが、僕はとても楽しかったですね。 RPGで冒険するように、一つひとつ壁を乗り越えながら商品を開発していく。知識や技術を超えて、「デザイナーの想像を超える、もっといい表現が絶対にあるはずだ」という技術者側からのクリエイティブな姿勢が、当初の理想を更新するモノづくりへとつながっています。 最高のチームだからこそできるもの 「デザイナーとして、これほど素晴らしいパートナーと出会えたことは、これまでのキャリアを振り返っても他に類を見ない」と上町さんは言います。前例のない挑戦に対して、最初に「できない理由」を並べられるのが一般的な現場の声です。不可能を前にしても決して下を向かず、純粋な好奇心で突破口を探り続ける開発チームの存在が、このプロジェクトを力強く牽引していたのでしょう。 上町:僕はプロダクトデザイナーという立場ですが、デザイナーは“アーティスト”ではありません。自分よがりな理想をただ再現することではなく、あくまでも僕の役割は「ARASにとって、次の進化の形とは何だろう」という問いに、誰よりも客観的に応えることだと思っています。 お二人は、その僕の感覚を深く理解しようとしてくれた上で、「ARASにとっての“美しさ”ってこういうことだよね」という共通の基準を、ブランドが誕生してからの6年半の歩みの中で、一緒に育ててきてくれました。僕が「このゴールを目指したい」と指し示すと、そこに応えるだけではなく「だったら、このアプローチはどうだろう?」と、僕が悔しくなるくらい魅力的なサンプルを先回りして提示してくれる。本当に最高のチームです。 田上:僕の仕事は、形と模様を機械の数字でコントロールして作り出すことです。自分の頭の中で計算しつつ「こう動かせば、こういう模様が出るはずだ」とシミュレーションしている時間が、何よりも楽しいんです。自分の予想通りに機械が動いて、理想の表現が生まれた瞬間は、技術者としてこれ以上ない至福の時間です。 商品が完成したときも、喜びに浸るというよりは「とりあえず現時点でのベストな状態を世に出せた。ただ、“完璧”に辿り着いたわけではなく、まだまだ技術は磨けるはず。次はさらにいいモノをつくってやるぞ」と、次を見据えています。 吉野:僕は、上町さんから言われたことを「無理難題」だと思ったことは、一度もありません。「(できないのは)まだ自分の、調色の解像度が甘いからだ」と思っているので。だから「無理を言われた」という感覚自体が最初からないんです。むしろ「加減することなく、もっと振り切って言ってほしい」くらいの気持ちがあります。たとえ不可能であっても、そこから逆算して今の限界を計れるはずです。あとは、こつこつ理想と現実のギャップを埋めていけばいい。 上町:このように高い次元で意見を投げ合っていただけるからこそ、僕の中でも「もっとやりたい、もっと先へ行きたい」というアイデアが溢れてくるんです。今回のヒートコレクションは、本当に「みんな最高、チームプレイの勝利」という一言に尽きます。 * 後編では、この挑戦の奥に流れるARASの原点、「工芸的プラスチック」という思想へと遡っていきます。 《前編》のおわりに… 暮らしに合わせて選べる器へ 「電子レンジ対応の器を増やしてほしい」という声がたくさん届いた一方で、すべての人が電子レンジ対応を求めているわけではありません。 「電子レンジはあまり使わないので、シンプルなデザインのままでいい」 「家族分をまとめて揃えるなら、価格的にベーシックコレクションが求めやすい」 そんなユーザーさまの声も、確かに存在しています。 ARASは、どちらか一方をなくして置き換えるのではなく、多様なライフスタイルに合わせて「選べる状態」をつくることを大切にしました。 すべての器をヒートコレクションにつくり変えるのではなく、ベーシックコレクションはそのままに“選択肢”を増やすこと。 みなさまの暮らしの違いをどこまでも尊重することが、ARASが大切にしている誠実さなのだと思っております。 後編へつづく 文・編集/嶋津亮太(ダイアログ・デザイナー)
閱讀更多
與其說做不到,不如先試試。~『長方形積油碟』所承載的,ARAS 的製物精神與餐桌風景~
ARAS 的系列產品,迎來全新成員「長方形積油碟」。細想日常的餐桌風景,「長方形碟」始終是每一幅飲食風景中,尚未填補的重要一塊。如今,終於迎來了與大家分享的時機。
閱讀更多
この度、ARASの人気商品「深皿スクープ」の形状変更を行いました。 ユーザーのみなさまへの報告として、形状変更の経緯とその想いを開発者の石川勤さんとプロダクトデザイナーの柳井友一さんにお伺いしました。
閱讀更多
「環境にいいとは何だろう?」~次世代の常識『LCA』を学ぶ~
いつもお読みいただきありがとうございます。2020年のブランド誕生からARASでは「サステナブル宣言」を掲げ、積極的に環境問題に取り組みながら食器づくりに邁進してきました。
閱讀更多
「これからの器の在り方と食体験」~FRW×ARASフォーハンズランチ&ディナー~
今年で13年連続開催されている「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク」は、フランス料理をもっと気軽に楽しんでいただくことを目的としたダイナースクラブが協賛する日本最大級のグルメイベントです。北海道から沖縄まで全国各地からおよそ500店ものフレンチレストランが参加しています。 9月14、15日の2日間開催された『フォーハンズランチ/ディナー~Le dîner à 4 mains~』では、フランスからシェフを招聘し、「和食材のテロワール」と「フランス料理」の融合と絆の構築を目指したダイニングセッションが行われました。日本からは “フォーカスシェフ”として選ばれたOpuses(オウパセズ)の十楚武志シェフが、そして、フランスからはLe Camondo(ル・カモンド)のファニー・エルパンシェフが“ゲストシェフ”として選ばれ、2人のシェフの4つの手(フォーハンズ)から生まれる特別なコース料理を支える器として、数ある食器の中からARASを選んでいただきました。 ル・カモンドからもうお1人スーシェフのメディさんも加わり、お3人のシェフに本イベントでのARASの器について、そして、「これからの器の在り方と食体験」をテーマにお話をお伺いしました。 〈話し手〉 十楚武志さん / Opuses(オウパセズ) ファニー・エルパンさん / Le Camondo(ル・カモンド) メディ・ブセナさん / Le Camondo(ル・カモンド) 器からのインスピレーション ──今回のイベントで使用していただいたARASの器の感想を聞かせてください。 ──器の中にリアルを感じました(十楚シェフ) 十楚:今回、私が手掛けた料理は、ARASの器からインスピレーションを受けて生まれたものです。「海水」と「杉皮」の器に出会った時、「このコンセプトをこのまま料理にしよう」と決めました。 海に囲まれ、山々に緑が繁る自然豊かなこの国のイメージをお皿の中に体現する。日本列島に比べ海の方が広大なので、「海水」では大きめの器を選び、山のイメージの「杉皮」には陸に棲む食材を盛り付けました。 興味深かったのは、器の質感もそうですが、重さです。「海水」の方が「杉皮」に比べて重いですよね。「あぁ、やっぱり海って重いんだな」と、器の中にリアルを感じました。器からインスピレーションを受けて創作する体験は、私自身の中でも珍しかったのでとても印象的な出来事でした。 ──良い意味で、想像を裏切ってくれた。器として完璧に近いものだと思っています(ファニーシェフ) ファニー:「軽くて、使いやすい」というのが触れた時の、最初の印象です。魅力はいくつかあり、まず驚いたことは軽さ、次に、触感──ソフトな手触りだけれど、凹凸のある質感で、今まで感じたことのない特別な素材感でした。また、“割れない”という丈夫さに加え、指紋が付かないことも大事なポイントです。一般的なガラスや陶磁器のお皿だと、盛り付けや持ち運びの際に表面に触れるので、指紋が付いてしまいます。ARASの器であれば、提供する前に“指紋を拭く”という手間を省くことができますよね。料理との相性は、どの器も目に優しい自然な色味なので、特に今回の料理にはぴったりでした。 実は、器に触れたのは来日後のことで、フランスではまだウェブサイトや写真のデータでしか見ていませんでした。「どの料理を合わせようか」とイメージを膨らませていたのですが、実際に器に触れてより一層イメージがクリアになりました。素材もユニークで、カタチもとても美しく、写真で見ただけの時はこれほどすばらしい器だと思っていませんでした。良い意味で、想像を裏切ってくれた。器として完璧に近いものだと思っています。今後、パリのレストランでも使いたいです。 器に求めるもの ──シェフのみなさんは、器に対して何を求めていますか? 器は、食材と並ぶくらい欠かせないもの(十楚シェフ) 十楚:レストランは五感で料理を楽しんでもらう体験だと思っています。最初は、情報を脳で味わい、その後、目で見て、耳を傾け、香りを楽しみ、ようやく口の中に運ぶ。そこで、脳で味わった情報たちと、風味の答え合わせをする。その一つの特別な体験を構成するために、料理だけではなく、サービスや空間がある。中でも器は欠かせないパーツの一つです。 個人的には、食材が浮き上がるような器に惹かれます。ARASの器は、光沢感のないマットな色合いですよね。食材が浮き上がる利点があり、立体的なシェイプなので、それがより顕著に現れます。 ──器に求めるものは便利さ(ファニーシェフ) ファニー:毎日、仕事で扱うならばプライオリティの一番は便利さです。そのためには、まずは壊れないこと。(お客様に提供する際の)サービスのことを考えると、重過ぎないことも重要です。カタチや色の魅力も大事ですが、私のレストランでは“便利さ”を重要視して選んでいます。その点では、ARASは理想的だと言えますね。そして、忘れてはならない点が、「エシカルであること」── メディ:私たちは「エシカルであること」についても普段からよく考え、レストランでもできるだけその想いに適った食器を選んでいます。たとえば、器の専門店などではお皿の裏側に少しでも傷がついたものは“傷物”として販売できなくなりますよね。それを捨てるのではなく、私たちが買い取ってレストランで使用する。それも一つのエシカルです。 あるいは、木製や樹脂製のお皿であればリサイクル可能なものをセレクトしています。地球へのやさしさは、料理だけではなく、食器まで考えなければいけません。 + 豊かな食体験とは ──ARASは、「“豊かな食体験”をユーザーのみなさまに届けたい」という想いがあります。 シェフのみなさんにとって、「豊かな食体験」とはどういうものですか? 十楚:レストランを訪れたお客様に「おいしかった、良い時間を過ごせて幸せだった」と感じてお帰りになっていただきたい。そして、生産者の方々を含め、自分に関わる人の幸せの輪を広げてゆくことが私にとっての“豊かな食体験”だと思っています。 メディ:我々シェフの立場での“豊かな食体験”は、お客様の立場よりも少し専門的な観点で、レストランの雰囲気、食材、調理法、食器、サービス……その一つひとつを注意深く観察しています。初めて見る食材、新しい表現、料理と器の個性的な組み合わせ、自分のレストランにはない魅力──それらを発見したい好奇心を満たしてくれるものが私にとっての“豊かな食体験”です。 そして、料理の次に“人間性”が求められます。店とゲストの関係性だけでなく、シェフとスタッフとの関係性も重要です。それらがレストラン全体の雰囲気をより良くするものだから。私たちのレストランでは、ある種、家にいるような心地良い雰囲気づくりを心掛けています。 ファニー:“ムード”は本当に重要です。パリでは、キッチンが地下にある店が少なくありません。シェフがキッチンに留まっていると、誰とも交流することなく、自分の世界に没入して抜け出せない状況に陥りやすい。だから、シェフは定期的にキッチンから出て、店の雰囲気を見たり、お客様とコミュニケーションすることを大事にしています。 料理、サービス、リレーションシップ、そして音楽や環境音などを含めた空間づくりすべてが“豊かな食体験”につながっています。 未来の食体験とこれからの“器の在り方” ──今後、どのような食体験をつくってゆきたいですか?そして、こらからの“器の在り方”についてもお話を聞かせてください。 十楚:未来の食体験は、常に時代によって変化してゆくでしょう。今は情報が先行する時代です。SNSなどで誰もが手っ取り早く情報を得ることができます。その“情報”を、料理を構成する一つの要素として織り込んでゆく。トレンドなどは取り入れやすいですよね。一方で、時代に関係なく“本当に良いもの”──普遍的な要素はこれからも残り続けるでしょう。 時代の変化を読みながら取り入れる部分と、時代に流されずに残りづける部分。未来の食体験には、その両方が大事なのだと思います。 ──“これから”ではなく、少なくとも“今から”取り組まなければならない(メディさん) メディ:未来の食体験は、料理だけでもなく、食器だけでもなく、そのどちらも一緒に考えていかなければいけません。なぜなら、それらはレストランで一緒に提供されるものだから。 “シェフ”という立場は、食育を伝えてゆく存在であるべきだと思っています。たとえば、健康面でも、動物性のタンパク質を減らしつつ、おいしさを損なわずに植物性のものに代替してゆく。食体験を通して、レストランに訪れたお客様の食事の習慣をより良いものに変えてゆく力があります。 料理と食器の在り方で言えば、やはり環境面に関しての課題は大きなテーマです。国連の事務総長が「地球温暖化から地球沸騰化へ」と警告したことは記憶に新しいですよね。これらの課題を、“これから”はじめるのは遅過ぎると思っています。“これから”ではなく、少なくとも“今から”取り組まなければならない。 極端な表現になりますが、シルバーのカトラリーを使用せず手で食べることが最もエコかもしれません。あるいは、“食べられるお皿”があっても良いかもしれない。そういった発想で、現代の常識に囚われることなく、地球にとって、私たちにとって、より良い方法を常に考えなければなりません。 ファニー:ARASの“サステナブル”のコンセプトを知り、地球にやさしい食器を提供していることに深く共感しています。これからも、そのような食器の在り方が広がってゆくとうれしいです。 「器は、“豊かな食体験”を構成するための大事な存在」 五感で楽しみ、深く味わうための料理を追求し、表現し続けてきたシェフたちのことばが印象的でした。“豊かな食体験”のために、料理だけでなくその周辺のあらゆる要素まで気を巡らせるシェフたちと、器だけでなく感情や記憶を含めた周辺のあらゆる要素をイメージしながら器をつくるARAS。インタビューを通して、互いの“在り方”が重なり、さらにそれぞれにインスピレーションを受け合っている関係性がとても興味深く。料理人と器のセッションが、さらなる未来を切り開いてゆく。レストランでの食体験は、それらをリアルタイムで味わえる歓びがあります。
閱讀更多
ARAS初の電子レンジ対応の器『ヒートコレクション』~温める。保存する。盛り付ける。~
一年以上に渡る開発を経て、今までご要望の多かった電子レンジ対応のプロダクトが完成しました。キャッチフレーズは「温める。保存する。盛り付ける。」、忙しい日常の中でも日々の食卓を豊かに彩る器です。つくった料理を電子レンジで温め直したり、保存容器として冷蔵庫に保存し、そのまま明日の食卓に並べることも。「深鉢ロッカク」「平皿ロッカク」それぞれサイズは大中小の3サイズ展開、カラーは、ブラック、グレー、カーキ、レッドブラウンの全4色展開です。
閱讀更多
自然の色彩を切り取り、食卓に“選ぶ楽しみ”を【後編】 ~サステナブルコレクション「杉皮」「海水」から全6色の新ラインナップが登場~
ARASのサステナブルコレクションから「杉皮」と「海水」に新しいカラーバリエーションが登場した。前回に引き続き、新商品ができるまでの工程を辿りながら、ARASチームの想いを伺った。前編では「つくる視点」、後編では「届ける視点」を紹介する。
閱讀更多
自然の色彩を切り取り、食卓に“選ぶ楽しみ”を【前編】 ~サステナブルコレクション「杉皮」「海水」から全6色の新ラインナップが登場~
ARASのサステナブルコレクションから「杉皮」と「海水」に新しいカラーバリエーションが登場した。テーマは「食の情景の変化を楽しむ」。サステナブルコレクションは、食体験の進化と、環境と共生するものづくりの進化を目指し、これからの時代の豊かさをカタチにするプロダクトだ。新色の杉皮では木の風合いとぬくもりが、海水ではミネラル由来の質感と重厚感が、それぞれに有機的な表情を生み出し、料理を引き立てながら格調高い食空間を演出する。 今回のjournalでは、「つくる視点」と「届ける視点」の前後編で、新商品ができるまでの工程を辿りつつ、ARASチームの想いを伺った。
閱讀更多















