ARASを立ち上げて3年目。
「日常に、より豊かな食体験を」と、技術と発想に想いを込めて、器をつくってきました。
巷でも目にする機会が増え、チームメンバーの知らないところでも日々の暮らしに溶け込んでいる印象だと彼らは話します。
Instagramのフォロワーは9万人を超えました。
広く、多くの人に愛される食器ブランドに育っています。
今ここで、“ARASらしさ”を考えること。
今までの食体験に、ARASという食器を提案してきました。
否定もせず、肯定もせず、一つの新しい選択肢として。
器を考え、その周りの生活に想いを巡らせ、健やかな生活が継続するための地球の環境と向き合いながら、工夫と吟味を重ねました。
それらがすべてつながって、きれいな循環が生まれたとき、本当の意味で「より良い食体験」が実現する。
その想いは、確かにお客様へ届いている実感があります。
ただ、続けてゆく中で「もっとARASらしい届け方があるのではないか」と感じるようになったと言います。
その伝え方を模索して、カタチにしてゆくことができれば、より多くの人へARASを届けることができるのではないだろうか──
今回は、ARASチームメンバーによる「ARASらしい伝え方」を考える座談会(公開ミーティング)をひらきました。“ARASらしさ”とは何か、愛を込めたコミュニケーションとは何か、ARASが届けたいモノは何か。その模様をお楽しみください。
石川勤/開発者(石川樹脂工業)
水上絵梨香/プロジェクトマネージャー(石川樹脂工業)
稲垣遥/コミュニケーションディレクター(石川樹脂工業)
上町達也/プロダクトデザイナー(secca)
柳井友一/プロダクトデザイナー(secca)
矢田朋未/グラフィックデザイナー
石向洋祐/ブランディングディレクター/アートディレクター(POOL inc.)
嶋津/インタビュアー
ARASの現状と課題
──この3年を振り返り、今のお気持ちと抱えている課題について聞かせてください。
石川(開発者)
多くの人にARASの世界観を伝えることはできているのではないでしょうか。端的に言えば、サステナブルの思想や樹脂素材の可能性を追求した「単なるお皿のブランドではないこと」は伝わっている印象です。とにかくARASユーザーのみなさんは、ジャーナルを読んでくれたり、Instagramを見てくれたり、能動的に調べてくれたり──わたしたちの考えを誠実に理解しようとしてくださっています。その上で、より好きになっていただけるような伝え方を模索したい。
インスタライブでは、わたしたちの想いや、商品に込めた愛情まで届いている感覚があります。ARASをより楽しんで、より豊かな食生活につながることに貢献できるとうれしいです。
上町(プロダクトデザイナー)
ブランドを立ち上げてから3年目に入り、アイテムのバリエーションも揃いはじめた今、「こだわりのある人の普段使い食器」と言ってきたことが間違っていなかったと実感しています。忙しい日々の中で、構えずに手に取れる自然の風合いのある器は今までにありませんでした。妥協したチョイスではなく、ストレスなく自然と手に取ったモノが食卓を彩る選択肢。
「ラク」をするのではなく、「肩の力を抜いていい」というニュアンス。
その感覚を提供できたことが結果的に、みなさんに受け取ってもらえていることに繋がっている気がします。
“ARASらしさ”とは
──“ARASらしい伝え方”を考える前に、“ARASらしさ”とはどこに感じますか
石向(ブランディングディレクター/アートディレクター)
普段、僕はARASのキービジュアルをディレクションしているのですが、その中で意識していることは「プロダクト中心ではあるが、その周りの生活に気を巡らせること」です。
丁寧な暮らし、生活の中にあるインテリア、溶け込んだ音やファッションなどのカルチャー。好きなモノを集めている中に、ARASの器がある状態を想像する。器の周囲を想像しながら、ビジュアルや世界観を練り上げています。
料理をつくることを楽しんだり、食べることを楽しんだり、ゲストを招いてもてなすことを楽しんだり。器を中心としたその人の周りの生活を想像できるように、プロダクト自体が設計されている。たとえば、作家モノの食器を使うと手入れに手間がかかったり、気を抜けない緊張感がありますよね。そういう意味では、ARASは軽いし、丈夫だし、気楽に扱いやすい。ユーザーの背景にある生活を想像した上で、モノの機能やデザインへと落とし込まれています。
もう一つは、プロダクトとしての純粋な感動があります。ビジュアルの印象として「新しい」。素材感の新しさもありますが、形状としても既視感のあるプロダクトは一つもない。
それはseccaさんの意匠によるものです。それがユーザーのみなさんのライフスタイルに馴染みつつも、“新しさ”のスパイスとして機能している。そこがARASの世界観であり、“ARASらしさ”ではないでしょうか。
柳井(プロダクトデザイナー)
「器を見て、器をつくらない」。
その上で、世の中にまだないプロダクトを考える。既視感はないけれど、安心感がある。その絶妙なニュアンスを追求しています。生活の中で、琴線に触れずにただ流れるのではなく、“ARASらしい”エッセンスとして受け取ってもらった上で馴染む感覚。その塩梅を常に意識しています。
上町(プロダクトデザイナー)
そこは、石向さんや矢田さんのビジュアル化がデザイナーである僕たち(secca)の指針にもなっている。可視化された世界観に、この器がフィットするかどうか。そこが最終的な判断基準になっています。お互いのクリエイティヴの対話によって、ARASのベクトルを確かなモノにしている。
矢田(グラフィックデザイナー)
誠実さと、実直さ。それは、ARAS チーム全体を通して、また「ARAS」というプロジェクトそのものに感じること。
フリーランスとして活動している身として、このチームの一員として働ける喜びや意義を感じています。石川樹脂
さんも secca さんも、ものを作る工程に驚くほどのこだわりや検討の数があるのですが、それを前に押し出さない。
たとえば、サステナブルコレクションの杉皮シリーズ。限定生産のプロダクトなのですが、決して出し惜しみしているわけではないんです。製品の材料である杉皮の匂いが強いので、一度完成した商品を1点ずつ、洗って乾燥させてから出荷する、という手間をかけている分、どうしても限られた数しか生産できないからなんです。
そのことを知ったとき、私自身、本当に驚きました。これらの手間をかけているから生産数に限りがある。でも、チームとしてはそれをあまり大きな声で語らない。普通なら「こんなにも手間をかけているんです」と言いたくなると思うんです。そこをぐっと飲み込んで、押しつけがましくない表現を選んで発信する。
「押し付ける」ではなく、「受け取りやすく」を考える。
今までご愛顧いただいている方にも「だからここが愛せるのか」と受け取ってもらえる形で届けたい。モノづくりに対してそれだけ誠実にやっているので、その姿勢が伝わるとユーザーさんもより納得して、より喜んでくださるように思います。
“わくわく”をしつらえる
石川(開発者)
これまで「樹脂」には“フェイク”や“チープ”などの印象がありました。ただ、ARASで扱っている原料は、実際には高価な素材──この「ARAS」というプロジェクトを進めるにあたり、質感や強度など、様々な面から検討して発見した一つです。
世界で唯一ARASのみで使用されている原料。実は、それほど特別な素材を使っているということは、みなさんにも知ってほしい部分でもあります。ただ、究極的にはお客様にとって素材はどうでもいいのかもしれません。
わたしたちは食器ブランドです。一つ言えることは、明るい気持ちになって食事をしていただきたい。決して暗い気持ちになって買っていただく商品ではありません。小難しいことやうんちくを並べて、重たい気分になってほしくない。わくわくしながら選んでほしいし、「早く届かないかな」とわくわくして家に届くのを待っていてほしい。届いたらわくわくして食卓に並べてほしい
でも、「本当はもっといろいろやってるんだよ」というつくり手の勝手な想いと葛藤しています。
柳井(プロダクトデザイナー)
僕自身、石川さんと同じく「わくわくしてもらいたい」という想いがあります。それはお客様だけでなく、チームメンバーへも同じ。器のプロットタイプをメンバーに見せるとき、「おっ」とこころを掴めるときと、「もう一声」という反応を感じるときがあります。全員がいいモノをつくりたいから、すぐには首を縦に振らない。ある意味、一つ乗り越えなければならないハードルとして挑戦的であり、うれしく感じています。まずはチームのメンバーからわくわくさせないと、ARASの意味がないと常に自問自答しています。
“ARAS”の人格は、そこにいる“人”がつくる
──盤石のチーム設計が、“ARASらしさ”や魅力だと感じています。みなさんの中で、どのような意識が働いているのでしょう?
水上(プロジェクトマネージャー)
私たちの根幹にあるのは、お客様に「より良い食体験」を届けること。チームメンバー全員が、その軸からぶれることなくARASについて考えています。だからこそ、素材にしても、デザインにしても、商品にしても、届け方にしても一つになることができる。そう思っています。
上町(プロダクトデザイナー)
つくるならば、“新しい三方良し”の関係性でありたい。
環境にとって良い、ユーザーにとって良い、つくり手にとって良い。
その三者が満たされてはじめて自信を持って提供できます。チームで互いの強みを出し合って、「価値とは何か」を問い続けながら、一つひとつ丁寧につくっている。だからこそ、「このプロダクトが広まってほしい」とこころから願うことができるのだと思います。そういうモノや仲間と出会えている時点で、僕たち自身わくわくするし、感謝の気持ちが湧いてくる。
内部の人がそういう自信を持ってつくることができたモノは、受け取ってくれる人が必ず増えると思っています。どこかが欠けてもそれは実現できなくて──そこが、ARASチームの強さだと思います。
稲垣(コミュニケーションディレクター)
私はメンバーの中で一番キャリアが浅く、ユーザー目線からARASに入った立場でもあります。このチームの魅力は、誰もが「より良いモノづくり」と考え、建設的に対話しているスタンスにあると感じています。
私の役割は、お客様の声をチームメンバーに伝えたり、チームメンバーの考えをお客様にお伝えする、伝書鳩のような存在です。チームメンバーのこの在り方を適切に伝えることができれば、それが“ARASらしい伝え方”につながると思っています。
あらためて、“ARASらしさ”とは
──わたし自身、“ARASらしさ”を感じる瞬間は、みなさんの“もう一歩先”を想像したコミュニケーションにあると思っています。つまり、最終的な行為に移る前に「愛のある伝え方は?」と考えている気がします。
石向(ブランディングディレクター/アートディレクター)
一人ひとりが血の通ったコミュニケーションを心がけているからではないでしょうか。たとえば、一つクレームがあった場合、一般的には「クレーム対策」のフォーマットやマニュアルがあり、それに則って対応します。しかし、チームメンバーのみなさんは一人ひとりが真摯に向き合って、その場で考えながらレスポンスしている印象があります。
キャンペーンをするにも既存のフォーマットに当て込むのではなく、毎回オーダーメイドでつくっている感覚がある。そこが、愛を感じる部分なのではないでしょうか。
上町(プロダクトデザイナー)
自分の仕事に誇りがあること、チームに誇りがあることが、結果的に“人に伝えたくなる感情”がチーム全体にあふれてくる。このチームは生きざまとして、仕事と向き合うことができています。
細かなスペックなども当然伝えてゆくのですが、もっと僕たちの想いの部分を伝えることにフォーカスしたいです。
「ディティールまで押し付けない」と言いましたが、つくり手が伝えたくなる想いの込められたモノは、ディティールまで考え抜くことが必要で。
細部に宿らせた技術や発想や想いを一度置いて、その向こう側にいるひとりの“人”に想いを巡らせる。
器との関係性を考えて、周辺を想像する。
フレームやマニュアルに頼らず、目の前の人を想い、想像する。
合理化や、効率化と距離をとった、一人ひとりと向き合ったコミュニケーションが“その人らしさ”として伝わる。
それが、“ARAS”という人柄。
インタビューを通して、わたしはそう感じました。
どうすれば“ARASらしい伝え方”で、届けることができるか。
チームメンバーのみなさんは週一回、このようなミーティングを重ねています。
愛の込め方、想いの伝え方について想像している時間こそ、愛に満ちた空間でした。
だから、ARASはわくわくする。
インタビュー/編集:ダイアログ・デザイナー 嶋津