自然の色彩を切り取り、食卓に“選ぶ楽しみ”を【前編】 ~サステナブルコレクション「杉皮」「海水」から全6色の新ラインナップが登場~

自然の色彩を切り取り、食卓に“選ぶ楽しみ”を【前編】 ~サステナブルコレクション「杉皮」「海水」から全6色の新ラインナップが登場~

ARASのサステナブルコレクションから「杉皮」と「海水」に新しいカラーバリエーションが登場した。テーマは「食の情景の変化を楽しむ」。サステナブルコレクションは、食体験の進化と、環境と共生するものづくりの進化を目指し、これからの時代の豊かさをカタチにするプロダクトだ。新色の杉皮では木の風合いとぬくもりが、海水ではミネラル由来の質感と重厚感が、それぞれに有機的な表情を生み出し、料理を引き立てながら格調高い食空間を演出する

今回のjournalでは、「つくる視点」と「届ける視点」の前後編で、新商品ができるまでの工程を辿りつつ、ARASチームの想いを伺った。 

石川勤/開発者(石川樹脂工業)
上町達也/プロダクトデザイナー(secca
柳井友一/プロダクトデザイナー(secca)

嶋津/インタビュアー

新色展開への想い

「今日はどのお皿にしよう?」「わたしは赤にしようかな」「僕は青にしようかな」、そんな会話が一つでも生まれたら、これほど楽しいことはない──開発者の石川さんは頬をゆるめてそう話し、「お客さまに器を選ぶ楽しさを届けたい」と続けた。

石川:
サステナブルコレクションは、石川樹脂工業だけでなく食器ブランドとしても前例のない試み*でしたので、発売当初はユーザーのみなさまへ受け入れていただけるか不安でいっぱいでした。いざ商品がお客さまのお手元に届くと、ARASのサステナブルの想いも含め、みなさまにあたたかく迎え入れていただけたことを実感し、胸をなでおろしました。そして、今回の新色展開へ舵を取ることができました。

カラーバリエーションが増えることで、テーブルコーディネートの幅も広がります。器を購入する時だけでなく、料理のシーンでも「どの皿が合うだろうか」と考えてもらえる。その「食器を選ぶ楽しさ」が、食体験の豊かさに繋がってゆく。もちろん、闇雲にバリエーションを増やせばいいというわけではありません。お客さまが混乱しないように配慮しつつ、食卓の幅が広がるアイテムになればと思っています。

*(注釈)
「杉皮」は素材の半分を杉の皮、「海水」は海洋性ミネラルを50%以上含む素材を使用。いずれも天然由来の原料のため、製品化の際に素材による揺らぎが生まれ、一点一点の表情がすべて異なるプロダクトとなっている。

地球の情景を切り出す

新しいカラーバリエーションのテーマは「地球の情景を切り出す」。場所によってさまざまに、また時間によっても移ろう地球の豊かな表情。それらの情景を切り取って、器として食卓に並べるとすれば…イメージしてみてください。あなたはどんな地球の情景が好きですか?プロダクトデザイナーの上町さんと柳井さんが、器に落とし込む自然の色彩について解説してくれた。

「海って何色?」

上町:
一口に海の色と言っても、一人ひとりが思い浮かべる色彩は一つではありません。曇り空の日本海、光を蓄えたモルディブの海、環礁のある遠浅のエメラルドグリーン、深海のグランブルー、沈む夕陽に乱反射する海面それは、生まれ育った環境や今までの経験によって異なります。まずはチーム内でイメージをしながら、色味の方向性を決めることが重要です。

柳井:

後から「見落としていた」ということがないように、最初にマトリックス上ですべての色彩パターンを洗い出し、メンバーで議論して、その中から最高の一つを見つけてゆく。このアプローチは、これまでにARASチームで培ってきた手法です。

色見表で森林や海の情景となるさまざまな色をピックアップして、「ミルクコーヒーの色に近いね」「これは瀬戸内っぽい」「孔雀釉のような色味だと料理と合うかも」とイメージをことばにして共有する。グラフィックの中で色を表現しても、モノとして形にしてみなければ実際の印象はわからない。プロトタイプをつくり、手に触れて見比べ、意見交換をして、次の試作へと反映する。そのように何度も検証を重ね、全員で「正解の色」を探求してゆく。

「おいしい色ってどんな色?」

上町:
“違和感のない色”をつくりたいと思っています。基本的に食材は自然物なので、人工的な印象のある器に盛りつけると、料理と器が不和を起こしてしまいます。たとえば、器の彩度が高くなり過ぎると、ケミカルな印象を与えます。中には瑠璃色のように受け入れられやすい色味もありますが、基本的には山や海など自然の中にある色彩に近づくことができた方が違和感を取り除きやすい。

柳井:
自然を見て、「汚い」と思う人はほとんどいません。それは、モノに対して抱く印象でも同じことが言えます。少しでも違和感を覚えれば、その原因はどこにあるのかを徹底的にリサーチする。その中で、メンバーたちの足並みが揃っていく感覚がおもしろいですね。

サステナブルコレクションのシリーズが登場してから、より自然との調和を意識するようになりました。僕たちデザイナーが、意図的に「絵を描く」というより、素材の持ち味を尊重し、最大限に活かすことを心がけています。

「杉皮」ではブラック、ブラウンといった森林の情景を、「海水」ではブルー、レッドといった海の情景を。どちらも時間経過によって移ろう表情に焦点を当て、色彩の選定を行った。たとえば、杉皮のライトブラウンは「陽の光が差し込む朝」、海水のコーラルピンクは「夕暮れ時」…自然の中に息づく色彩を採掘し、素材の魅力を引き出しながらも、料理のおいしさを引き立たせる色味に微調整する。

上町:
食の空間や手がける料理によっても、器との相性があります。既存のシリーズではコーディネートが難しいと感じていた人にも、わくわくして手に取ってもらえるカラーバリエーションになればと思っています。ARASのコンセプトにも、モノとしての器にも納得していただけて、その器がある生活自体を愛おしく想える選択肢になることができれば、これ以上にすばらしいことはありません。

ユーザーと共につくる器

石川:
わたしたちは、ARASに携わるすべての人をブランドパートナーと考え、商品開発からブランドづくりまで共に1からつくり上げることを目指しています。今回の開発は、オンライン上でのお客さまとのコミュニケーションからたくさんヒントをいただきました。すべての要望を実現できるわけではありませんが、器を手に取ってくださったお客さまお一人おひとりの背景を理解しようと努め、その中で驚きや楽しさのある一歩先の提案ができればと思っています。そういう意味では、Instagramにポストされた一つひとつのコメントが、わたしたちの原動力になっています。

自然の豊かな表情を抽出し、器へと落とし込む。それは、かつて印象派の画家たちが光に踊る色彩たちを追い求め、絵画の中に永遠の命を与えようとしたように。サステナブルコレクションの新色開発は、まさに自然の中に息づく色彩を探す旅。光と色彩を採掘する職人たちの手によって、一つひとつの器に命が吹き込まれ、地球に宿る情景が再現されてゆく。

後編へつづく

インタビュー/編集:ダイアログ・デザイナー 嶋津

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