Restaurant L’aubeでしか味わえない食体験。 今橋英明さんと平瀬祥子さんが料理を通してお客様へ届ける 〝おいしさの向こう側〟。器からのインスピレーションと記憶に残す感動のつくり方。

Restaurant L’aubeのオーナーシェフ今橋英明さんとシェフパティシエの平瀬祥子さんへお話を伺いました。ARASの器からインスピレーションを受けて、二人が創作してくださった料理を紹介しながら、今橋さんと平瀬さんの出会い、そしてRestaurant L’aubeの哲学に迫ります。


Ouverture
〈序章〉

海が近い農地、特に露地栽培で育った野菜は、豊富な滋味深さ、しっかりとした味わいや食感、個性を持ちます。

 531日(日)の神奈川県の横浜市と鎌倉市の境にある私が以前就農していた畑には、新玉ネギ、新ジャガイモ、少しとう立ちして厚みを帯びたレタス類、春の名残りの黄かぶや黒大根、初夏を告げる胡瓜、ズッキーニの若芽、初取りの隠元、まだ青いトマトや茄子が梅雨入りを待っている状態でした。夏を前に香りが強くなるミント、コリアンダーやルッコラ、フェンネルの花が軽く湿度を帯びた潮風に揺れて強く芳しい香りを放っています。

 ───お二人が出会う以前のお話についてお聞かせください。 

今橋
フランスのニースで修行していた店(KEISUKE MATSUSHIMA)の東京店として、Rstaurant-I2009年に開業しました。私は、立ち上げからその店に入ることになるのですが、一年を経たずして退職します。  その折に、鎌倉のとある店から「シェフとして働かないか?」というお誘いをいただきました。出身が横浜だったこ  ともあり、私はその提案を受けました。そこで鎌倉野菜と出会います。

 「野菜をつくりたい」 

 「食」と関わる仕事は、料理だけではなくともいろいろな方法がある。そのような想いから、農業をはじめました。生産者のもとで週5日働き、残りの2日をレストランで過ごした。  半年ほどそのような生活が続いたのですが、農業中心の仕事から、次第にレストランで働く時間が増えていきました。 

 「今橋くんはやっぱり料理人なのだから、望まれているなら戻った方がいいよ」

 生産者である野菜農家の加藤宏一さんのその言葉が今でも深く心に残っています。そして、Rstaurant-Iへ戻ることを決めました。一年ほどシェフの右腕として働き、その後、同店のシェフとなりました。

 その時、店ではパティシエを募集していました。いないわけではなかったのですが、とりわけ適任の人物がいたわけではなく。固定のパティシエを求めていました。

 「フランスでパティシエをしていた腕の良い女性がいます」

 当時、私の二番手を務めてくれていた子が、心当たりのある人物を知っていました。その時、面談に来てくれたのが平瀬: 祥子さんでした。

平瀬
ちょうどどこか別の店に移ろうと思っていたタイミングでした。一時期、体調を崩して休養をとっていた期間がありました。その後、「人手が足りない」という理由で友人の店を手伝ったのですが、それはあくまでも〝手伝い〟でしかなかった。自分が考えたものであっても、お客様の前へは友人の名前(シェフの名前)として出されます。極端な表現かもしれませんが、そこには私の責任はない。 

もう一度〝シェフ〟という立場で仕事がしたい。 

そのタイミングで「Rstaurant-Iがパティシエを探している」と、声をかけていただきました。

Prelude
〈出会い〉

玉ねぎはフライパンで焼くことで、土の香りを出しつつ、火を入れることによって辛味が甘味へと変化していきます。新ジャガイモはゆっくりと塩茹でし、ホクホクに。隠元はさっと塩茹でし、すぐに冷やし、食感を残します。茄子は煮浸にし、胡瓜はスライスして塩とレモンのフレーバーを帯びたオリーブオイルで軽くマリネ。根菜類は2mmにスライスして、氷水に晒し、食感と厚さがもたらす野菜の滋味を引き出し、水分をしっかりと含んだレタス類は軽く洗ってそのまま使います。

調理を通して野菜それぞれの個性を引き出しているのでしっかりとした野菜本来のおいしさを五感で味わうことができるサラダとなります。私の就農経験も合わせて、この料理が相応しいと思いました。

──お二人のお互いの印象についてはいかがでしたか? 

 今橋
キャリアもそうですが、一度お会いすれば「仕事ができる」ということはわかります。パティシエとして、ぜひ入っていただきたいと思いました。

平瀬
信頼のある人物という印象でした。  例えば、後輩が野菜などの食材を雑に扱ったりすると、「これをつくった人が、どのような想いで育ててきたのかを考えろ」と、そのように指導している姿を見て、驚きました。普通だったら、もっとざっくりと怒りますよね。「つくり手の気持ちまで考えなよ」というのをしっかりと伝える。きっと生産者としての経験があるからなのでしょう。器にしてもそうです。「自分がものをつくる人間だったら、ものをつくってくれている人の気持ちを考えてていねいに扱わないといけない」と常に言っていました。そのように指導する人をはじめて見ました。

今橋
人の気持ちを汲み取ることを強く意識したのは、今平茂シェフとの出会いが大きかったように思います。私がキャリアをスタートさせたのは、横浜にある霧笛楼という店です。今平シェフの下で6年半働きました。「技術よりもまず人格」という言葉をいつもおっしゃっていて、人として大切なことを優先する人でした。当時、料理の世界に入ったばかりの私は右も左もわからない状態で。新しい現場に行く度に、今平シェフの言葉が深く染み入るように、身体的に理解していったように思います。鎌倉での生産者としての経験も大きかったです。しもやけで赤く腫れた手で芥子菜を摘んでいるおばあちゃん。朝4時に作業小屋に出てきて、野菜を収穫している姿。そのような光景を見ていると、それぞれがつくり手で、何かを生み出している。そこに対する感謝や敬意というのは忘れてはいけないと思っています。 

平瀬さんとの出会い、時を同じくして、今回器のデザインをされたseccaさんを紹介していただいた───

纏めるソースは、干し甘海老の旨味を凝縮させて、魚醤、オリーブオイル、唐辛子を加えたソースです。干し甘海老は、この器をデザインされたseccaの方々と初めてお会いした時に、「金沢にこういうものがあってね」とご紹介された思い出がある食材です。その時につくったソースは、ただ食材を粉砕してオリーブオイルとニンニク、唐辛子と合わせただけのものでした。感覚でつくったわりにおいしくできた記憶があるものの、改めて思い返してみるとまだ荒削りでした。あれから約7年が経ち、次回メニューでこのソースを昇華させたいと思って試作をしていた矢先に今回のお話(ARAS Journal)をいただきました。seccaさんも石川樹脂さんと手を組み、過去の経験からヒントを得て、新たな材質によって技術を昇華させていくというタイミングということもあり、それらの背景を含めて良いチョイスだなと思いました。

 

L’aube 〈響き合う物語のはじまり〉

───どのような経緯で、Restaurant L’aubeを開業されたのでしょうか?

平瀬
二人が「独立を考えている」と話しはじめたタイミングは同じ頃だったのではないでしょうか。私はもともと「一人で店をしたい」という想いがありました。周囲には「一人でスィーツバーのようなものをやりたい」ということを話していました。開業するに当たり、いろいろと調べたりしていたのですが、どうしてもお菓子づくり以外の部分が弱い。経理関係や経営について、私にはできないのではないかという不安はありました。

 

今橋
様々な経験をさせていただく中で、「他人の哲学の中で仕事をする」ということに窮屈さを感じはじめていて。そのことが原因なのか、体調を崩すようなことも起きていた。「シンプルにやりたいことだけやりたい」という想いから自分ですることを考えはじめました。レストランというのは絶対に一人ではできません。右腕がいて、左腕がいて、もちろんシェフという責任者がいる。平瀬さんも「店をしたい」という想いがあったことは知っていたので「一緒にやってみないか?」と声をかけました。タイミングがいろいろと重なった。

自然が創造した美しさと、人が創造した美しさの絶妙なハーモニーを生み出すこと。 《その瞬間にしか存在しない美味しさ》を創りつづけること。 ここから私達の物語が始まる。そんな想いを込めて「L’aube(ローブ)」と名付けました。 生産者のこだわり、その風景、季節の移ろい、日本とフランスの食文化が響き合う、新たな美味しさ、愉しさ、心地よさと、それらが誕生する美しい瞬間をお届けしていきます。

※Restaurant L’aube  HPより〉

Restaurant L’aubeの料理は、小さなフィンガーフードがあり、5皿料理が出て、デザート2皿、それから最後にチョコレートが出てきます。まずは手で触ってもらって、触覚で体験し、味覚で味わいながら、温度や匂い、音など、いろいろな変数の振り幅を持たせながら表現していく。

その瞬間にしか存在しない美味しさ 

今橋
 
私は、食材というのは〝リレー〟だと思っています。野菜を育てている人がいたり、魚を捕獲する人がいたり、それを仲卸してくれる人がいたり……料理人として私はそのリレーの途中にいる。食材をお客様の口元に運ぶためには、それらのことを明確に説明できなくてはいけません。

例えば、「長崎の五島列島の魚屋の林さん(気合いの入った女性です)は、海中放血神経締めの処理をスジアラに施します。割と型の大きな魚は、その処理をすることで長期熟成をさせることができます」という風に。

おいしさの向こう側

 今橋
〝シェフ〟という「料理を考えなければいけない立場」になった当時は、自分の経験からでしか料理はつくれなかったので、今までにつくったことがある料理をなんとなく自分でアレンジしていました。 

ただ、「おいしい」ということは当然なのですが、いろいろな方とお会いする中で、〝おいしさの向こう側〟が一番大事なのではないか、と感じるようになりました。そこをもっと追求していきたい。そうすることでRestaurant L’aubeにしかないものになっていく。 

例えば、器であればつくり手の想いがあり、「このような着想を得てつくりました」という物語があります。それが料理の要素とリンクしていれば、点と点がつながる。互いにつながった点は新しい物語を生みます。 

それを伝えることで、お客様が口へ運んだ時に納得してくださります。「おいしい」という感情に、「そうなんだ」という納得が加わる。感情と同時に脳が満たされていく感覚です。どの店に行っても料理はみんなおいしいんです。そこに何かロジカルな要素があると、料理が輝くのではないかと思います。それは自分が食べていても感じます。

平瀬
その時々によって違いますが、私の場合は「自分が食べたいもの」から発想するかもしれません。 

また、デザートには一般的なスィーツやおやつとは異なり、コースを締めくくる役割があります。お客様の反応を見て、「コース料理が重たいかな」と思えば軽めにしたり、反対に完食していたとしても「お腹が減っている」という声が聴こえてきたりすると、味付けを濃くしたり、糖分で調整したり。お客様の反応を観察しながら、リアルタイムで現場に反映させていきます。

 器に導かれる料理

 「豊かな大地」は滋味深い野菜を育ててくれます。サラダの語源はラテン語で「塩をする」という意味に由来しています。海の波紋をイメージして制作された器から、母なる海がもたらしてくれる「ミネラル豊富な大地」と「塩」を連想しました。

 

 ───お二人のアイデアや表現の源泉はどこから?

 今橋
今回の器では、きっとここに乗せてほしいのだろうという平らな部分が端にあった。「波紋の形状によってソースが混ざるように」とそれぞれの配置をイメージした時に、「ああ、これは野菜だな」ということは考えていました。それはもう、手にした瞬間に。

 平瀬
最初にseccaさんのLandscapeのお皿を購入させていただいた時に、「この器だからこそできる」という体験と出会いました。器の中に円形がたくさんあって、それぞれに高低差がある。そこでは、一般的なフラットな器では思いつかないアイデアが生まれます。

今までお店でつくっていたデザートとは全く違うものになっています。この器だからこそできる料理というものが生まれてくる。

乗せる部分が少ないから、必然的に料理を細かく分けることが求められます。分けた時に、食感や風味を少しずつ変えてみたり。そこからバラエティに富んだアプローチが生まれます。例えば、木にまつわる香りのデザートをつくった時は、時間の移ろいを含めて森の中を散歩しているようなイメージだったり。

また、Landscapeの器には「すべらない」という素材の特徴があります。そのマットな質感を活かして、桃や洋ナシなどの水分の多い果実を立体的に盛り付けることができます。一番下にすべりやすい桃を置いても、重ねていくように飾り付けをできたり。 この器だから実現できる表現ですよね。

 平瀬
なみなみとした器の形状と、飴細工の波打つ形状が、良いハーモニーを生むだろうと連想しました。見た目の凹凸の部分と薄い飴細工がさざ波のような共鳴を起こします。このドレッセ(盛り付け)にすることを決めてから食材を選びました。ドレッサージュは、seccaさんの器のデザインからインスピレーションを受け、元はシンプルなデザートをお皿の形状に沿う飾りを施すことでドレスアップしていくイメージです。器とのコントラストを考えて、明るい色にしました。飴細工と花を白にして、器の白と一体感を。 

今橋
例えば、海が見えるテラス、森林の中にある冷涼な別荘地、あるいは丘の上のレストランで出てきたらかっこいい。やはり白や黒は太陽に映えるので、お日様の下で食べるような食体験になるといいですよね。どのような場所やシチュエーションで出すのかを考えることでイメージは拡がります。波紋は視覚として楽しんでいただけるように大きなスペースを空けました。あえて、端につくった平らな部分に野菜を乗せ、奥から手前にカトラリーで野菜とソースを一緒に運んでいただくことで、波紋という形状が機能してソースがよく絡みます。器のデザインと料理のおいしさを一緒に楽しめる一皿ではないでしょうか。

 平瀬
店でseccaさんの器を扱うことは、二人の中では暗黙の了解になっていました。scoopを見た時に、ただただファンになった。ファンというのはコレクターのような性質があって、やっぱり違う形の器もほしくなるじゃないですか。「これ、すごい。見たことない。ほしい。何に使う?わからない。でも、何かできそうだよね」って。

 今橋
平瀬さんの言う通りで、最初から決まっていました。seccaさんの器を見た時に、自分たちと一緒にこれから長いお付き合いできる方々なのではないか、と。プロダクトだけでなく、人の部分でもそのことを感じていましたので、必然というか。つくってくれたものにいつも驚きがあったり、「この器に盛るには、どういう料理がいいだろう?」など、それをすごく考えさせてくれる器が多いので。一緒にお仕事をさせていただいて、すごく楽しいです。


Postlude
L’aubeのこれから〉

───レンストラン、あるいは、料理人としての在り方や目標などはありますか?

今橋
それがないからできるのかもしれないですね。形になってしまうとそこで終わってしまいます。自分たちが持っているものをコツコツ磨き上げていくことしかない。その先はまだわからないです。

平瀬
パティシエって女性が多くて。だんだん結婚や出産で、職を離れていくので、そういう人たちが一緒に働いていける環境をつくっていきたいという想いがあります。「レストラン」を、女性たちが仕事を続けていける場所にしていく。それが今の目標ですね。

紹介した商品
  • ARAS ウェーブプレート
    ARAS ウェーブプレート
    ¥3,000