「これからの器の在り方と食体験」~FRW×ARASフォーハンズランチ&ディナー~

今年で13年連続開催されている「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク」は、フランス料理をもっと気軽に楽しんでいただくことを目的としたダイナースクラブが協賛する日本最大級のグルメイベントです。北海道から沖縄まで全国各地からおよそ500店ものフレンチレストランが参加しています。

91415日の2日間開催された『フォーハンズランチ/ディナー~Le dîner à 4 mains~』では、フランスからシェフを招聘し、「和食材のテロワール」と「フランス料理」の融合と絆の構築を目指したダイニングセッションが行われました。日本からは “フォーカスシェフ”として選ばれたOpuses(オウパセズ)の十楚武志シェフが、そして、フランスからはLe Camondo(ル・カモンド)のファニー・エルパンシェフが“ゲストシェフとして選ばれ、2人のシェフの4つの手(フォーハンズ)から生まれる特別なコース料理を支える器として、数ある食器の中からARASを選んでいただきました。

ル・カモンドからもうお1人スーシェフのメディさんも加わり、お3人のシェフに本イベントでのARASの器について、そして、「これからの器の在り方と食体験」をテーマにお話をお伺いしました。 

〈話し手〉

十楚武志さん / Opuses(オウパセズ)

ファニー・エルパンさん / Le Camondo(ル・カモンド)

メディ・ブセナさん / Le Camondo(ル・カモンド) 

 

器からのインスピレーション

──今回のイベントで使用していただいたARASの器の感想を聞かせてください。

──器の中にリアルを感じました(十楚シェフ)

十楚:
今回、私が手掛けた料理は、ARASの器からインスピレーションを受けて生まれたものです。「海水」と「杉皮」の器に出会った時、「このコンセプトをこのまま料理にしよう」と決めました。

海に囲まれ、山々に緑が繁る自然豊かなこの国のイメージをお皿の中に体現する。日本列島に比べ海の方が広大なので、「海水」では大きめの器を選び、山のイメージの「杉皮」には陸に棲む食材を盛り付けました。

興味深かったのは、器の質感もそうですが、重さです。「海水」の方が「杉皮」に比べて重いですよね。「あぁ、やっぱり海って重いんだな」と、器の中にリアルを感じました。器からインスピレーションを受けて創作する体験は、私自身の中でも珍しかったのでとても印象的な出来事でした。

──良い意味で、想像を裏切ってくれた。器として完璧に近いものだと思っています(ファニーシェフ)

ファニー:
「軽くて、使いやすい」というのが触れた時の、最初の印象です。魅力はいくつかあり、まず驚いたことは軽さ、次に、触感──ソフトな手触りだけれど、凹凸のある質感で、今まで感じたことのない特別な素材感でした。また、“割れない”という丈夫さに加え、指紋が付かないことも大事なポイントです。一般的なガラスや陶磁器のお皿だと、盛り付けや持ち運びの際に表面に触れるので、指紋が付いてしまいます。ARASの器であれば、提供する前に“指紋を拭く”という手間を省くことができますよね。料理との相性は、どの器も目に優しい自然な色味なので、特に今回の料理にはぴったりでした。

実は、器に触れたのは来日後のことで、フランスではまだウェブサイトや写真のデータでしか見ていませんでした。「どの料理を合わせようか」とイメージを膨らませていたのですが、実際に器に触れてより一層イメージがクリアになりました。素材もユニークで、カタチもとても美しく、写真で見ただけの時はこれほどすばらしい器だと思っていませんでした。良い意味で、想像を裏切ってくれた。器として完璧に近いものだと思っています。今後、パリのレストランでも使いたいです。

器に求めるもの

──シェフのみなさんは、器に対して何を求めていますか?

器は、食材と並ぶくらい欠かせないもの(十楚シェフ)

十楚:
レストランは五感で料理を楽しんでもらう体験だと思っています。最初は、情報を脳で味わい、その後、目で見て、耳を傾け、香りを楽しみ、ようやく口の中に運ぶ。そこで、脳で味わった情報たちと、風味の答え合わせをする。その一つの特別な体験を構成するために、料理だけではなく、サービスや空間がある。中でも器は欠かせないパーツの一つです。

個人的には、食材が浮き上がるような器に惹かれます。ARASの器は、光沢感のないマットな色合いですよね。食材が浮き上がる利点があり、立体的なシェイプなので、それがより顕著に現れます。

──器に求めるものは便利さ(ファニーシェフ)

ファニー:
毎日、仕事で扱うならばプライオリティの一番は便利さです。そのためには、まずは壊れないこと。(お客様に提供する際の)サービスのことを考えると、重過ぎないことも重要です。カタチや色の魅力も大事ですが、私のレストランでは“便利さ”を重要視して選んでいます。その点では、ARASは理想的だと言えますね。そして、忘れてはならない点が、「エシカルであること」──

メディ:
私たちは「エシカルであること」についても普段からよく考え、レストランでもできるだけその想いに適った食器を選んでいます。たとえば、器の専門店などではお皿の裏側に少しでも傷がついたものは“傷物”として販売できなくなりますよね。それを捨てるのではなく、私たちが買い取ってレストランで使用する。それも一つのエシカルです。

あるいは、木製や樹脂製のお皿であればリサイクル可能なものをセレクトしています。地球へのやさしさは、料理だけではなく、食器まで考えなければいけません。 

豊かな食体験とは

──ARASは、「“豊かな食体験”をユーザーのみなさまに届けたい」という想いがあります。

シェフのみなさんにとって、「豊かな食体験」とはどういうものですか?

十楚:
レストランを訪れたお客様に「おいしかった、良い時間を過ごせて幸せだった」と感じてお帰りになっていただきたい。そして、生産者の方々を含め、自分に関わる人の幸せの輪を広げてゆくことが私にとっての“豊かな食体験”だと思っています。

 

メディ:
我々シェフの立場での“豊かな食体験”は、お客様の立場よりも少し専門的な観点で、レストランの雰囲気、食材、調理法、食器、サービス……その一つひとつを注意深く観察しています。初めて見る食材、新しい表現、料理と器の個性的な組み合わせ、自分のレストランにはない魅力──それらを発見したい好奇心を満たしてくれるものが私にとっての“豊かな食体験”です。

そして、料理の次に“人間性”が求められます。店とゲストの関係性だけでなく、シェフとスタッフとの関係性も重要です。それらがレストラン全体の雰囲気をより良くするものだから。私たちのレストランでは、ある種、家にいるような心地良い雰囲気づくりを心掛けています。 

ファニー:
“ムード”は本当に重要です。パリでは、キッチンが地下にある店が少なくありません。シェフがキッチンに留まっていると、誰とも交流することなく、自分の世界に没入して抜け出せない状況に陥りやすい。だから、シェフは定期的にキッチンから出て、店の雰囲気を見たり、お客様とコミュニケーションすることを大事にしています。

料理、サービス、リレーションシップ、そして音楽や環境音などを含めた空間づくりすべてが“豊かな食体験”につながっています。

未来の食体験とこれからの“器の在り方”

──今後、どのような食体験をつくってゆきたいですか?そして、こらからの“器の在り方”についてもお話を聞かせてください。

十楚:
未来の食体験は、常に時代によって変化してゆくでしょう。今は情報が先行する時代です。SNSなどで誰もが手っ取り早く情報を得ることができます。その“情報”を、料理を構成する一つの要素として織り込んでゆく。トレンドなどは取り入れやすいですよね。一方で、時代に関係なく“本当に良いもの”──普遍的な要素はこれからも残り続けるでしょう。

時代の変化を読みながら取り入れる部分と、時代に流されずに残りづける部分。未来の食体験には、その両方が大事なのだと思います。 

──“これから”ではなく、少なくとも“今から”取り組まなければならない(メディさん)

メディ:
未来の食体験は、料理だけでもなく、食器だけでもなく、そのどちらも一緒に考えていかなければいけません。なぜなら、それらはレストランで一緒に提供されるものだから。

“シェフ”という立場は、食育を伝えてゆく存在であるべきだと思っています。たとえば、健康面でも、動物性のタンパク質を減らしつつ、おいしさを損なわずに植物性のものに代替してゆく。食体験を通して、レストランに訪れたお客様の食事の習慣をより良いものに変えてゆく力があります。

料理と食器の在り方で言えば、やはり環境面に関しての課題は大きなテーマです。国連の事務総長が「地球温暖化から地球沸騰化へ」と警告したことは記憶に新しいですよね。これらの課題を、“これから”はじめるのは遅過ぎると思っています。“これから”ではなく、少なくとも“今から”取り組まなければならない。

極端な表現になりますが、シルバーのカトラリーを使用せず手で食べることが最もエコかもしれません。あるいは、“食べられるお皿”があっても良いかもしれない。そういった発想で、現代の常識に囚われることなく、地球にとって、私たちにとって、より良い方法を常に考えなければなりません。

ファニー:
ARASの“サステナブル”のコンセプトを知り、地球にやさしい食器を提供していることに深く共感しています。これからも、そのような食器の在り方が広がってゆくとうれしいです。

「器は、“豊かな食体験”を構成するための大事な存在」

五感で楽しみ、深く味わうための料理を追求し、表現し続けてきたシェフたちのことばが印象的でした。“豊かな食体験”のために、料理だけでなくその周辺のあらゆる要素まで気を巡らせるシェフたちと、器だけでなく感情や記憶を含めた周辺のあらゆる要素をイメージしながら器をつくるARAS。インタビューを通して、互いの“在り方”が重なり、さらにそれぞれにインスピレーションを受け合っている関係性がとても興味深く。料理人と器のセッションが、さらなる未来を切り開いてゆく。レストランでの食体験は、それらをリアルタイムで味わえる歓びがあります。

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